新たな夢。
桜牙
第1話
勢いよく缶詰のふたを開けるとジオラマのような風景が浮かび上がってきた。
菜の花が風に吹かれ優しく揺れている映像、それにつられて蝶々がひらひらと優雅に舞う光景が見えてきた。
歓声が聞こえる。
風景が飛び出す缶詰を作った男。
確かに子供たちに夢を与えれた。明るい未来が見れない子供たちに見せるだけでやはり売り物にはならなかった。
缶詰では収益を得る事が出来ず子どもたちに夢は与えたものの自分は夢を見れずになっていた。
そんなある日。
男はいつもの通り缶詰を使って子供たちに夢を与えていた。
全ての缶詰を使い子供たちはそれぞれの家に帰って行った。
そこに1人の老人がやって来た。
「その缶詰は君が作ったのかい?どう言う仕組みになってるんだ?」
「はい、この缶詰は僕が作りました。仕組みは教えるわけにはいきません」
「なるほど。ただでは教えれないと言うわけだね?」
「そう言うわけではないですが…」
「ならその技術を私に買わせてもらえないか?満足のいく代金を支払うよ」
「急にそんな事を言われても困ります。少し考えさせてもらってもいいですか?」
「そうか、なら明日まで待とう。それまでに決断してくれ」
「分かりました」
「では、明日またここで、いい返事を期待してるよ。では、失礼するね」
そういうと老人は去って行った。
翌日。
いつもの様に子供たちに夢を見せていた。
その間にも男の頭の中では昨日のことを考えていた。お金をもらえれば確かに生活は楽になる。だが技術を上げるということは子供たちに夢を与えられなくなるということだ。男はずっと迷っていた。
缶詰がなくなり子供たちは帰って行った。
そこに昨日と同様に老人がやって来た。
「どうだね。考えてくれたか?答えを聞かせてもらおう。」
「その前にひとつ質問していいですか?」
「良いだろう、なんだね?」
「この技術を使って一体何をしようと思っているんだ?」
「なんだ、そんなことか。私が運営してるテーマパークのパレードに使わせてもらおうと思ってるよ」
「パレードですか?」
「そうだ。パレードで使用してより多くの子供たちに夢を見せてあげようと考えている」
確かにそれだとより多くの子供たちに夢を見せてあげれる。だがここの子供たちのように行けない子はどうなる? もう夢を見れなくなるんじゃないか? どうする? どうする? 男はあることに気がついた。
「分かりました。この技術をあなたにお譲りします。より多くの子供たちに夢を見せてあげてください」
「ありがとう。賢明な判断をしてくれて私は嬉しいよ」
「でも、もう一度もう一度だけこの技術を使わせてください。お願いします。」
「分かったよ。じゃあ、また明日ここで会おう」
「ありがとうございます。ではまた明日」
翌日。
いつもの様に子供たちに夢を見せていた。
最後の一つに差し掛かった時。
「みんな、この缶詰は明日からはここでは使えなくなる」
子供たちが不平を漏らす声が聞こえて来た。中には泣き出す子供もいた。
「だが必ずもっと素敵な夢をみんなに見せにに帰って来る。その日まで待ってくれないか」
そういうと子供たちの不平を漏らす声は消え泣いてた子は泣き止んだ。
「しばしのお別れのその前にとっておきの夢を見せてあげるよ」
そういうと男は最後の缶詰を開けた。
これまで聞いたことのない歓声がその場を包み込んだ。
ショーが終わり子供たちも帰って行って静けさが戻っていた。
そこに老人があらわれた。
「素敵なショーだったね」
「ありがとうございます」
「早速で悪いが技術を頂こうか」
「技術のデータは全てこれに入ってます」
「確かに受け取ったよ。これは約束のものだ」
「こんなにもらっても良いんですか?」
「構わないよ。この技術にはそれだけの価値があると思っている」
「それに君がここに早く戻って来れるように少しでも助けになれば良いと思っていてね」
「あはは、聞かれてましたかお恥ずかしい。何から何までありがとうございます」
「いやいや、こちらこそ感謝してるよ。お互い子供達のために頑張ろう」
そう言って老人は去って言った。
数年後
あの場所で男が子供たちを集めていた。
「みんな、集まってくれてありがとう。これからみんなを誰も見たことのない夢の世界へ連れていくよ!」
新たな夢。 桜牙 @red_baster
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