第40話~崖の壁

 がりがりがり。

 私は今、臼で魔石を粉にしています。

 ユージさんのお蔭で★が予定より早く15個を達成し、ワープを使えるようになったのでクエストを探し中です。ユージさんがタブレットを操作している間、私は時間が勿体ないので臼を……いえ本当を言うと、やった事がなかったのでやってみたかっただけです。

 向かい側の椅子でやるって言ったんだけど、別に膝の上でいいよって言われ今回も膝の上。これほかの人が見たら子供をあやしながら仕事をする図になってませんか? まあ他の人に見られる事はないんですけどね。


 「やっぱり迷宮系統のはないね。地図作製がいっぱいだよ」

 「そうなんだ。みんなロマン求めてるんだね」

 「まあ、戦闘もないし。そういうのしか刺激がないよね……。本当はもっとお宝があるらしいんだよね~。あ、お宝って魔石じゃなくて発明品とかね」

 「え? そうなの?」


 私の臼を引いていた手が止まった。

 ユージさんはほほ笑んで頷く。


 「って言ってもこの島では一度も発見されてないけどね……」

 「だから今回、噂は本当かもとみんな掘り出したんだね」

 「だと思う。地下だったんだ! って事になったんだろうね」


 やっぱりまったりだけだと飽きるものね。

 私の場合は、魔法陣描いて作るって作業があるから結構楽しいけど。


 「あ、これこの前の奥だね。……地図作製した時の奥の場所あるけど、これにする?」

 「うん。それでいいよ」

 「でさ、今色々見ていて気が付いたんだけど、どうも崖が存在してるみたいなんだよね」

 「え? 崖?」


 私はタブレットを覗き込んだ。

 ユージさんが地図を表示していて指差し、スライドする。

 紅葉の所は崖で止まっていた。その左右も何となくそんな感じがする。地図作製のほとんどがそこで止まっていたのです。


 「地図出して来る」


 私はぴょんっと膝から飛び降り、リュックから板の地図を取り出し、また膝の上に戻った。

 作ったばかりの魔石の粉を少し入れ、地図を表示させる。板には鮮やかな地図が浮かび上がる。この地図も高低差は表示されていない。

 タブレットは文字が色々書き込まれているが、板の地図はタブレットより細かく地図は表示されるけど文字はない。


 「やっぱり崖で行き止まりになってるんだね。何となく横に線が走ってるよね」

 「うん。だからタブレットの地図って大抵ここまでなんだね……」


 私の様に登れる人がいたとしても人数が少なければ、そこからは一人でいかなくてはならなくなる。リスクが高いのでやらないのかもしれない。


 「取りあえずこの前の奥受けて、更に奥も覗いてみる?」

 「いいの?」


 ユージさんは頷いた。


 「別に地図に表示されていない所に行ってはダメって事はないから。ただどうなっているかわからないから行かないだけ。僕達が持っているような地図を持ってる人はいないだろうからね」

 「え? そうなの?」

 「あのね……。持っていたら調べつくされてるって。他の人の地図って自分が通った道が表示される物だと思うよ。これ発明品だけどほとんど魔具みたいなもんだと思う。だからこの地図も絶対に他の人に知られない様にしないと奪われるよ」


 ユージさんは、板の地図を指差しながら話した。

 そういうもんなんだ。でも確かに全部見れるなら地図作製なんて作業はないよね。


 「あ、そうだ! これ大量に作って売るとか出来ないかな?」

 「君が発明家ならあり得るかもだけど、かなり高価な物だから高価過ぎて買い手がいないかもね……」

 「そんな凄い価値のものなの?」


 私が驚いて聞くとユージさんは神妙な顔で頷いた。


 「だってそれさえあれば、色々網羅できるでしょ? 見る人が見ればここら辺に迷宮があるってわかるだろうし、その中だってこの地図である程度把握出来る。一気に色々バランスが崩れるだろうね」

 「……やめておきましょう!」


 それがいいとユージさんがまた頷いた。


 そもそも本に書かれている内容は、私が使う為の物だよね。錬金術師になる為に置いて行ってくれた物! って、たかが本されど本ね。


 私達はクエストを受け、地図作製に向かった。

 地図作製をさっさと終え、更に奥に向かう。そして私達の目の前には壁が立ちはだかった!


 「思った通り崖があったね」

 「うん。でも崖の上に何もないからロープで登れないね」


 ユージさんは頷く。

 そうなると私しか登れない。板の地図があったとしても私一人でこの先に行かなくてはならない。


 「この向こうの迷宮に多分、発明品が眠っているんだろうね」

 「あ、なるほど」


 ユージさんの言う通りなら皆が一生懸命掘った所で何も出てこないって事だよね。

 あ、そうだ! この崖を横に掘り進めて、トンネル作ったらダメかな? そうしたらユージさんも通れるし他の人も進めるし……。


 「ねえ、ここトンネル掘って向こうに行ける様にしたらどうかな?」

 「あぁ、そういう手もあるね! ……でもそれは流石に勝手にやらない方がいいかも。やるなら聞いて仕事とかクエストとかで受けた方がいいよ」

 「そうだね」


 一応自然破壊? になるもんね。

 私達はワープで戻る事にした。やり方は簡単でバッチに触れながら『ワープ』と言うだけ。

 でも緊張する。


「「ワープ」」


 私達は声を揃えて言った。

 ふと目の前が一瞬暗くなったと思ったらギルドの部屋の中にいた。


 「凄いねこれ。なんか感動」

 「うん。おもしろ~い」


 早速受付に行き地図を渡す。


 「あのこの奥見て来たんですが、紅葉の所みたいに崖になって……」

 「え? この先にも行ったんですか?」


 ユージさんの言葉に受付のお兄さんは、崖ではなく先に進んだ事に驚いていた。


 「凄いですね! ……うん? この洞窟へ続くって何ですか?」


 私達が作成した地図を指差しお兄さんは言った。そこは前に私が洞窟から穴を開けた部分で、書き記しておいたのです。


 「お恥ずかしい話なんですが、前回作っていた時に川の崖に落ちて死亡し安全地帯にワープしたのですが、そこが洞窟だったんです。で、彼女が掘って外に出たんです」


 ひょいっと突然話終わると同時に、ユージさんは私を抱き上げた。


 「はぁ? ソレイユちゃんが掘ったんですか?」

 「えーと、はい……」

 「彼女、その時トンネル師を覚えたんですけど登録いいですか?」

 「え? ト、トンネル師??」


 私達は同時に頷いた。


 「えっと、じゃ取りあえず手を置いてもらって……。本当にトンネル師って……」


 多分お兄さんもそんな存在知らなかったんだろうね。

 条件がわからないから他にいないかも知れないし。


 「では、カードをどうそ」

 「ありがとう」


 私はカードを受け取るとポケットにしまった。


 「で、話の続きなのですが、崖の向こう側に行ける様にトンネルを掘ってもいいですか? クエストか仕事で請け負いたいのですが……」

 「……あ、ちょっと聞いてきます」


 お兄さんは驚いたまま、奥に入って行った。そしてしばらくすると戻って来た。


 「トンネルを作るクエストを追加する事になりました。と言っても条件がトンネル師がいる事なので、実質あなた方しか出来ないんですよ。UPしたらお願いしますね」

 「はい」


 私達は返事をすると、ギルドの部屋に戻った。もう夜も更けていたので布団に入り、リアルで一時間ほどログアウトする事にする。

 朝にはきっとトンネルの仕事がUPされているだろうと期待して。早く崖の向こう側に行ってみたい!

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