狼人と世界の明るさ

ふかっち

Ep.1 始まりの日

「はぁ、はぁ、はあっ……やっと、、、逃げられた……。」

建物をでると、そこは、森でした。幼い頃の記憶を辿っても、ここが、何処なのか分かりません。なにせ、外へでたのは10年ぶりです。


───おまえは、実験動物としていきていく運命なんだよっ!

───なんせ、狼に変身できる”人間”だもんなァ。

───人と狼が夜に子供作ってできた、生まれてはいけなかった存在だもんな!ハッハッハッ!!

───狼さんよぉ、殴ってやろうじゃねーかへっへっへっ

───あ、痛ってー!こいつ噛んだ。檻の中にでも閉じこめてしまえ!


「……頭が痛い。」

思い出してしまった嫌な記憶をどこかに放棄した時、


「おっと、狼さん、私達に包囲されてると気づかないとは。もしかするとあなたの中に私達の存在は皆無なのかもしれませんねぇ……それはいけませんねぇ。帰ったら、相当痛めつけてやりましょうか……。さあ、あなた達、捕らえなさい。」


私はもう、終わりなんだ。と思いました。絶望しか頭の中にはありませんでした。


私は、全ての運命を呪って、死のうとしました。


勇気を出しながら奪ったナイフを持って、この人たちから見えない位置で、腕の太い血管を切ろうとしたその時、


────「こっちへ来るんだ!!急げ!」


彼に出会いました。

その彼の声は、少し高めであどけなく、でも、何かを秘めている様な声で、私は、考えるより先に彼を追いかけていました。


森をでると彼は、わたしの知らない道にたくさん進んでいきました。通ったことの無いような裏路地をとおり、時には屋根の上も進んでいきました。歩いてやっと着いた先には、小さな廃屋がポツンと立っていました。


彼は、中に入りました。なので、わたしも入ります。


家の中は、一応綺麗にしているようで、壊れそうではありましたが、汚そうではありませんでした。


彼は、キッチンであろう部屋に進んで、コーヒーを淹れてくれたようでした。

そのコーヒーは飲んでみると正直麦茶で、野原の味がするようでした。別に嫌いではありませんでしたが、これなあに?と訊くと、彼は、「タンポポコーヒー。」と答えました。

嫌いだった?と訊かれたので、「嫌いじゃないよ」と答えると、彼は、柔らかい微笑みをうかべて、そうか。と答えました。



少し休むと、彼は、「自己紹介まだだったね」と言い、

「おれは、レン。レンってよんでくれ。」と自己紹介してくれたので、私も、

「わたしは柏田千夏。」と、応えました。本当は、名前なんて持ってません。昔ついてた名前なんてもう覚えていません。

「……それで、何で追いかけられてたんだ、お前は?」と、訊かれたのですが、答えたくないので、黙っていると、

「まあ、いいや。」とあきらめてくれました。

「ところで、お前、ナイフ持ってたよね。貸して」と言うと、私のポケットのナイフを抜き取ると同時に、窓の外へ投げてしまいました。

「え、なにするの?私、あのナイフがないとわたし───」

「だって、あのナイフでおまえ、死のうとしてただろ。


俺の前でまた人が死ぬなんてもういやだ。ましてや自殺なんてされた らたまったもんじゃない。だから、ナイフは捨てる。


…………今日はもうおそい、少し寝て休め。」


私は、彼の「また」という言葉が気になりましたが、もう寝ることにしました。ソファで横たわると、毛布が、投げ込まれました。いつぶりかなと思いながら、わたしは、すやすやと、───────。

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