ⅩⅩⅩⅡ  私の家族

 ノエルに手招きされて、少年は子犬のように駆け寄ってその隣にちょこんと腰かけた。

「あたしは、こうして家族に再会できて、帰る家が見つかった。だからあとの事なんて今はどうでもいいの。あたしが今心配なのは、ロビンとエディの事。ロビンは少し前のあたしと同じで両親の顔も何も知らなくて、エディはマーヤが唯一の家族だった。二人とも身寄りがないのよ。だから兄様、この二人がここでいっしょに暮らすことくらい、出来るわよね?」

 ノエルは心配そうにミカエルを見つめる。青年は一瞬驚いたような顔をし、優しく微笑んだ。

「私も母も、初めからそのつもりだったよ。」

「えっ、本当?」

 目を輝かせたノエルに頷くミカエル。別の声もそれに応えた。

「もちろんよ、ノエル。あなたは優しい子ね。」

 ノエルとロビンは同時にその声の方を振り向く。そして息を呑んだ。ノエルが呟く。

「マーヤ……?」

「その名で呼ばれたのは、今日で二回目ね。」

 冗談めかした口調で言って笑った細身の女性は、まだ少し目が赤いエディを伴って部屋に入ってきた。さっと立ち上がったミカエルが自然な仕草で彼女をエスコートする。

「母上、もうお体はよろしいのですか?」

「ええ、すっかり良くてよ。ありがとうミック。」

 彼女は息子の手を取り、顔を見上げる。ノエルは勢いよく立ちあがった。

母様かあさま? 母様なの?」

 彼女――サヤ=ダンヴェリアルは娘の顔を見つめ、微笑む。それだけで充分だった。

「母様!」

「ノエル!」

 母娘はしっかりと互いの体を抱き締める。二人とも笑顔だった。もう涙は多すぎるくらい流したのだから。

「ああノエル、大きくなって……立派な、素敵な娘になったわね。」

 そしてサーヤは、自分とマーヤが姉妹であること、つまりエディはノエル達の従兄弟であることを明かした。

 ノエルとエディは思わず顔を見合わせる。が、エディはすぐに目をそらした。またノエルの心に重いものが圧し掛かる。彼はやっぱりまだノエルを赦していないのだ。サーヤはそんな二人を、少し哀しげな目で見守っていた。

 やがてミカエルがそんな空気を破った。

「ノエル、エディ、ロビン。三人とも、疲れただろう。今日はもう休むといい。とりあえず、この屋敷の中は安全だから。」

 助け舟を出してくれたのだと分かったので、ノエルは素直に頷き、ガーネットに案内されて部屋を出た。二人の少年たちもそれぞれ騎士たちに伴われて部屋を出る。軽く溜め息を吐くミカエルの肩を、サーヤは優しく叩いた。

「ミック、あなたも今日は休んだらどう? 本当に大変な一日だったわ。」

「そうも言っていられませんよ。」

 彼は立ち上がり、肩をすくめた。

「本当に大変なのはこれからです。彼が黙って見ている訳がないでしょう。きっと近いうちに、また……。」

 ミカエルは曖昧に言葉を切り、目を伏せた。サーヤも頷く。漠然とした悲劇の予感は、次第に形をとり始めたように思えた。

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