魔物
何体もの狼に似た生き物が襲い掛かってきているが、私は自分を中心に障壁を張ってなんとかその攻撃を防いでいた。
しかしその生き物達は全く諦める様子もなく、次から次に襲い掛かってくる。
その様子を見て、私は舌打ちしながらこの状況をどう打破するか悩んでいた。
「お、お姉ちゃん・・・」
「大丈夫、大丈夫だから。必ず私が、リム君をお母さんの所に連れていってあげるからね」
「う、うん・・・」
腕の中で震えながらしがみついてくるリムに安心させるように笑顔を向けたが、やはり状況が状況なだけに安心は出来ないようで目に涙を浮かべながら不安そうな顔をしている。
(う~ん、だけど本当にどうしよう・・・さすがにリム君を守りながらこの数を相手にするのは正直厳しい。一応リム君を抱いて飛ぶ事も考えたけど・・・あの奇妙な形の羽でもし飛べたとしたら、空中で一斉に襲われるのはさらにヤバイ・・・)
私は障壁の守りをさらに強固にしながら、色々とシュミレーションするがこれと言って良い案が思い浮かばなかったのだ。
そうして暫くどうにも出来ずただじっと守りに徹していた時、突然その異変は起こった。
何故か突然、あんなに激しい攻撃を仕掛けてきていた生き物達が、急にその場で動きを止め一斉に森の方を振り返ったのだ。
そして次の瞬間、まるで蜘蛛の子を散らすようにその場から見ていた方と違う方の森に向かって逃げて行ってしまったのである。
「・・・え?一体何があったの?」
その突然の出来事に私は呆然としていたが、ふとあの生き物達が見ていた森の先から複数の明かりが近付いて来ている事に気が付いたのだ。
そうしてすぐに、その複数の明かりは森を抜け私達の目の前に現れたのである。
「おお!良かった、無事なようだな!!」
「・・・あ!さっきの衛兵さん!!」
そう現れたのは、あの城門の所で話していた衛兵のおじさんであった。
そしてよく見ると、その衛兵のおじさん以外にも複数の兵士達が松明を手に辺りを気にしながら立っていたのだ。
どうやら先程から見えていた複数の明かりは、その兵士達が持っていた松明の光であったようである。
しかし私はそれよりも、とても気になる人達がいる事に気が付いた。
(あれ?あのローブを着た人達って・・・どう見ても魔法使いの人達だよね?でも普通こう言う救助って兵士だけでは?・・・ん?あの手に持ってるのって・・・あのよく見掛ける水色の石では?)
私は魔法使い達が手にかざすように持っている、光輝く水色の石を不思議そうに見つめたのである。
「ん?なんだ?なんでここから先に進めないんだ?」
その声にハッと気が付き、私は不思議そうに障壁に阻まれて立っている衛兵のおじさんの方を見たのだ。
「あ、ごめんなさい!今すぐ消すから!」
そう言って私は、すぐさま展開していた障壁を消し去ったのである。
「・・・そうか、君は魔法が使えたんだな。だから助けに行くと言ったのか。しかし・・・だからと言って一人で行くなんて無茶をするんじゃ無い!!」
「・・・ごめんなさい」
「まあ・・・結果的に君が助けに行ってくれた事で、我々が来るまでこの子を守って貰えたようだしそれは感謝している。ありがとう」
「いえ・・・私なんてほとんど何も出来なかったから・・・」
「そんな事無いよ!お姉ちゃん、強かったもん!僕を守って一匹倒してくれたんだよ!!」
しょんぼりしていた私の腕の中から、リムが突然声を張り上げ近くで黒焦げになっている例の生き物の死骸を指差したのだ。
「・・・あれを・・・君が?」
「あ・・・はい・・・」
衛兵のおじさんは驚いた表情でその黒焦げの死骸を見つめていると、その私達の話が聞こえた兵士と魔法使い達がその死骸に近付いていったのである。
「す、すげ・・・」
「こ、これは・・・高等魔法でないとここまでならないぞ!」
そんな驚きの声が私の耳に聞こえてきたが、私は敢えて聞こえてない事にしたのであった。
(・・・敢えて説明すると、なんだか凄く面倒そうな事になりそうな気がする・・・特にあの魔法使い達のキラキラした目が、あの魔法馬鹿達と同じに見えるから)
私は前世で向けられていたあの崇高する目を思い出し、内心うんざりしていたのである。
「君・・・本当に凄いな!あの魔物から一人でこの子を守っていたのも凄いが、さらに普通では簡単に倒せない魔物を倒したなんて!」
「・・・魔物?」
「ん?なんだ?もしや・・・魔物を知らないのか?」
「はい。魔物って・・・さっき襲ってきた生き物の事?」
「そうだ。しかし、魔物を知らないって・・・君はどこから来たんだ?」
「あ~え~と・・・海の向こうの大陸から・・・」
「海の向こうの大陸?・・・ああ、なら噂は本当だったんだな」
「噂?」
「ああ、どうもこの魔物はこの大陸だけに出没していると言う噂だ」
「・・・なるほど。確かに私の住んでた所では一度も見たこと無かった」
「やはりな。だからあんなに夜になるのに街から出たがったのか」
「・・・もしかして、あの魔物と呼ばれている生き物って夜しか出ないの?」
「ああそうだ。何故か奴らは太陽が沈んでからしか動き出さないんだ。だからこの大陸では夜は外出せず、あの守りの石で街や建物を守っている」
そう言って衛兵のおじさんは、あの魔法使い達が手に持っている水色の石を指差した。
「守りの石?」
「ああ、あの魔物に対抗するべく我が国の王族と魔法省が協力して作り出した魔物避けの石なんだ。あの石があれば魔物は近寄って来れない。だが、携帯用は魔法使いが魔力を込め続けていないと効力が発揮出来ないんだ。だからどうしても手配に時間が掛かってしまって来るのが遅れてしまった・・・すまない」
(ああ、だからあの時突然あの魔物達が逃げ出して行ったんだ)
助けが来た時にまるで怯えるように急いで逃げていった魔物達の様子を思い出し、ようやく合点がいったのである。
「いえいえ!来て貰えただけ助かったので!!ああ、でもだからあの時すぐに行けないと言ってたんだ」
「ああ、あれが昼間であればすぐにでも我々だけで行けたんだが・・・」
「まあ事情が分かったんで良いですよ。それよりもあの魔物について聞きたい事が・・・」
「っ!!」
「え!?リム君どうかしたの!?」
私がさらに詳しく聞こうとした時、突然腕の中にいたリム君が膝を押さえて痛がったのだ。
「う、ううん。なんかお話長そうだったから、僕離れた方が良いと思って動こうとしたんだけど・・・転けて膝を擦りむいていたの忘れてて・・・っ!」
「ああ無理に動かないの!ほらちょっと見せて。あ~血が滲んでるじゃない。すぐに治してあげるからじっとしてて」
そう言うと私は、すぐにリムの怪我をした膝に手をかざし意識を集中した。
するとその私の手から光が膝に注がれ、そしてみるみるうちに傷が綺麗に消えていったのだ。
「うわぁぁぁぁ!!お姉ちゃん凄いや!もう痛くないよ!!!」
「そう、それは良かった。だけどあんまりはしゃいでまた転んでも知らないからね」
私の腕から抜け出し飛び跳ねて喜んでいるリムを見つめて微笑んでいると、なんだか様々な角度から視線を感じ恐る恐る周りを見回す。
すると衛兵のおじさんが再び驚いた表情で固まり、他の兵士達も同じように驚いて見られそして魔法使い達に関しては、先程よりもさらに目をキラキラさせてこちらを見ていたのだ。
(あ、なんか色々ヤバそう・・・)
私はちょっとやってしまった感を感じながら、ポリポリと頬を指で掻き服に付いた汚れを払うように叩いた後、少し困った表情で衛兵のおじさんに顔を向ける。
「あの~さすがにそろそろ街に戻りませんか?いくら守りの石があっても、またさっきの魔物が戻ってくるとも限らないので・・・」
「あ、ああそうだな。では皆戻ろうか」
「じゃあリム君帰ろう?」
「うん!」
そうして私は様々な視線を受けながら、敢えてそれに気が付かない振りをしてリムと手を繋いで街に戻って行ったのであった。
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