里(?)帰り
私は城門から街中に入って行き、様々なお店が建ち並ぶ通りを歩いていた。
実はここは、前世のサラスティアの生まれ故郷であるグランディア王国なのである。
そしてそのグランディア王国に、私は200年振りの里(?)帰りにきたのだ。
(・・・200年も年月経ったけど、こう言う人が賑わう所は基本変わらないな~)
そう思いながら、活気溢れる店々を興味津々と眺めながら足を進めたのであった。
そうして懐かしさ半分観光気分半分で無意識に街中を歩いていたら、私はいつの間にか貴族の屋敷が沢山建ち並ぶ場所まで来てしまったのだ。
(・・・凄いな~もう前世の事なのに、体が勝手にここまで来ちゃったよ。だけど・・・歩いている貴族達の視線が痛い。まあ今の私は完全に庶民だし、格好も旅人の格好だからそりゃ変な目で見られるよね)
自分の姿を見て、呆れた笑いが溢れた。しかしそれでも私は歩き続け、そしてある屋敷の前で立ち止まったのである。
(・・・良かった。無くなってなかった)
私は多少増改築された跡はあるが、見慣れたその屋敷の姿にホッと胸を撫で下ろしたのだ。
するとその時その屋敷の玄関が開き、そこから一人の少女が楽しそうに出てきた。
私はその少女を見て、ギョッと目を見開き思わず声を上げてしまったのである。
「マリベル!?」
その少女は、サラスティアの時に産んだ一人娘の『マリベル』と全く同じ容姿をしていたのだ。
腰まで伸びたサラサラに輝く銀髪と紫の瞳。顔の作りも、サラスティアの時の思い出にある『マリベル』と瓜二つだったのである。
「・・・あら?どなた?」
その『マリベル』にそっくりな少女は、私の声に気が付きこちらを見て首を傾げながら不思議そうな顔で声を掛けてきた。
「え、あ~えっと・・・」
「ミスティア?どうかしたのかい?」
するとその時再び玄関が開き、そこから今度は一人の男性が出てきて少女に声を掛けてきたのだ。
しかし私はその男性を見て、再び目を大きく見開き思わず名前を呼んでしまった。
「ヒューイ!?」
「・・・誰だね?君は?」
次に出てきた男性は、金茶の髪に蒼い瞳の『大人ヒューイ』にそっくりな人だったのである。
だがその男性は、私の様子に怪訝な表情で探るような目を向けながら、『マリベル』にそっくりなミスティアと呼ばれた少女を背中に庇ったのだ。
私はそこで明らかに私の行動が怪しかった事に気が付き、慌てて二人に向かって頭を下げたのである。
「ご、ごめんなさい!お二人があまりにも私の娘や義弟・・・いや!知り合いにそっくりだったので、思わず呼んでしまったんです!す、すぐ去りますね!!」
そう私は焦った声で捲し立て、踵を反して急いでその場を離れようとした。
「お待ちになって!」
しかしその時、男性の後ろにいたミスティアがその背中から顔を出し私を呼び止めてきたのだ。
その予想外の呼び止めに驚き、私は戸惑った表情で振り返った。
するとミスティアは、私を見つめてニッコリと微笑んだのである。
「ねえ良かったら、その私達にそっくりだと言う方々のお話聞かせて下さらないかしら?」
「え?」
「それにそのお姿・・・旅の方ですわよね?出来ればこの王都の外のお話も聞かせて欲しいのですけれど・・・駄目かしら?」
「ミスティア・・・」
「ねえお父様、宜しいでしょ?」
「はぁ~お前は相変わらず好奇心が強いな。それに一度言い出したらもう聞かなくなるし・・・仕方がない。すまないがお嬢さん、少し娘の話し相手に付き合って貰えないだろうか?」
「え?ええ!?」
まさかの展開に、私は驚愕の表情で固まってしまった。
だがその時、その場の空気を読んでくれなかった私のお腹から、空腹を知らせる音が大きく鳴り響いてしまったのである。
(なんでこのタイミングで鳴るの!!!!!)
「まあ、お腹を空かせてらっしゃるのね。でしたら、お話を聞かせて頂く変わりにお食事をご用意致しますわ!」
「そ、それは・・・」
「気にしなくて良いよ。娘もこう言ってるし、それにその音を聞いてそのまま帰すわけにも行かないしね」
「ううう・・・はい、すみません。お招ばれさせて頂きます」
二人から優しい眼差しで見られ、私はお腹を押さえながら顔を赤くし小さく頷く。
そうして私は二人に促されながら、思いがけなく元実家?に入る事になったのであった。
私はサラスティアの時にも使っていたリビングに通され、程なくして目の前の机に沢山の料理が運ばれてきたのだ。
「ごめんなさいね。急だったからそんなに沢山作れなかったと料理長が謝っていましたわ」
「いえいえ、お気になさらないで下さい。これでも十分豪華でどれも美味しそうですから!」
「ありがとうございます・・・あ、いけない!私ったらまだ自己紹介してませんでしたわ!私、ミスティア・・・ミスティア・アズベルトと申します。そしてこちらが私のお父様で・・・」
「ロランド・アズベルトだ。一応この国の宰相をしている。しかしすまないね、娘の我儘に付き合って貰って」
「いえ、こちらこそこんな豪華な食事を用意して頂いてありがとうございます。あ、私はレティシアと申します」
「レティシアさん、そんなに気にしなくて良いよ。さてすまないが、私は少し仕事があるので書斎にこもらせて頂くよ。レティシアさんはゆっくりしていってくれて良いからね。・・・ミスティア、あまりレティシアさんを困らせるんじゃないよ」
「はい、分かっていますわ」
そうしてロランドはリビングから出ていき、私とミスティアと数人の侍女がいるリビングで用意して頂いた料理を食べる事にした。
「う~ん!!美味しい!!」
「そうでしょ?この料理、昔から料理長が代々引き継いでいる秘伝のレシピで作っているそうなんです」
「昔から代々・・・」
私はその言葉を聞き、懐かしい味のする料理の数々を見て思わずグッと来るものがあったのである。
「レティシアさん・・・何かお口に合わなかったかしら?」
「い、いえ!あまりにも美味しかったから感動してたんです!あ、それと私の事はレティと呼び捨てして頂いて構わないですよ」
「まあそうでしたの!後で料理長に伝えておきますね。きっと喜びますわ。それから私の事もミスティとお呼び下さい。それと敬語じゃ無くても宜しいですよ」
「じゃ、じゃあ・・・ミスティ、私も敬語じゃ無くて良いからね」
「・・・ごめんなさい、レティ。そうしたいのは山々なのですけど・・・これで慣れてしまっているので、このままの話し方でも構わないかしら?」
「べつに構わないよ。・・・しかし、ミスティって今何歳なの?」
「私ですか?私は今年13歳になりますわ」
「え!?13歳?正直もう成人されてる歳かと思ってた」
「ふふ、よく言われますわ」
ミスティアは、黙っていれば深窓の令嬢のような風貌をしていて大人びた雰囲気だったので、すっかり成人していると思っていたのだ。
予想もより若かった事に私が驚いていると、ミスティアはとても楽しそうに可愛らしく笑っていたのであった。
そうして私は食事を終え、食後のお茶を楽しみながらミスティアと楽しくお話をしたのである。
「・・・それで、私とそっくりだとおしゃられたマリベルさんと言う方はどんな方なのですか?」
「えっと・・・確かにその子もミスティと同じように、見た目は深窓の令嬢みたいな子なんだけど・・・中身は凄くお転婆な子だったの」
「まあ!そうなのですの?」
「うん。でも笑顔の素敵なとても良い子だったよ」
「ふふ、なんだかレティの表情を見てるとその子がとても大切だった事がよく分かりますわ」
「まあ、ね」
「それで、そのマリベルさんは今はどうされてますの?」
「え?え~と・・・・・結婚して遠くに行っちゃった」
「まあそうでしたの。それは寂しいかったでしょう・・・あ、もしかしてそのお相手って・・・」
「あ~うん、さっきロランドさんを見間違えた人だよ」
「確か・・・ヒューイさんとおしゃられた方でしたわよね?」
「うん、そうだよ」
私はそう答えながら、遥か昔・・・サラスティアの記憶を思い出していた。
あれはマリベルが6歳の誕生日パーティーの時、今まで忙しく贈り物だけ贈ってきていたヒューイが初めてパーティーに参加してくれたのだ。
そしてその時マリベルは初めて見たヒューイに一目惚れし、成人してからもずっとヒューイを思い続け会う度に猛アタックを繰り返していた。
しかし当のヒューイは、義理とはいえ姪であり親子程離れたマリベルの想いに応える事など出来るはずも無いと、頑なに断っていたのだ。
だがさすがにアズベルト家当主の座を継いだヒューイが、いつまでも独身でいるわけにもいかないって事である時お見合いをする事になったんだけど・・・そのお見合い会場にマリベルが乱入してお見合いを滅茶苦茶にしちゃったのである。
だけどマリベルはその場で真剣な想いの丈をヒューイにぶつけると、ヒューイもそこでやっとマリベルがとても大切な女性になっていた事に気が付き二人は漸く結ばれた。
そうして結婚した二人は、こっちが見てるのも恥ずかしくなる程ラブラブだったのだ。
そんな事を思い出し、私は幸せな人生を送ってくれた娘と義弟の姿を思い浮かべたのだった。
「お年の離れたお二人の恋物語・・・素敵ですわ」
「ふふ、ありがとう」
懐かしい気持ちで私は二人の事を娘や義弟とは言わずに話、その話をミスティアは目をキラキラ輝かせながら聞いていたのだ。
「そう言えば、ミスティは誰か好い人いるの?」
「え?私ですか?私は・・・」
私の質問にミスティアが恥ずかしながら答えようとしてくれた時、突然リビングの扉がノックされそこから一人の侍女が入ってきた。
「お話し中失礼致します。ミスティアお嬢様、お客様がおみえになられました」
「お客様?・・・まあ大変!もうそんな時間でしたの!?・・・レティごめんなさい。こちらにお客様をお通ししても宜しいかしら?」
「え?私は構わないけど・・・と言うか、私はもうそろそろ・・・」
「良いわ、お客様をここにお通しして頂戴」
「はい、畏まりました」
ミスティアは私の言葉を最後まで聞かず、勝手に侍女に指示を出しそれを聞いた侍女が一礼して出ていってしまったのだ。
「ちょ!ミスティ!?」
「ごめんなさい、レティに是非ともご紹介したい方なの」
「そ、そうなの?でもお邪魔だったらすぐ出るからね」
見た目に反して異様に押しの強いミスティアに呆れながらも、私は仕方がないと諦めそのお客様が来るのをミスティアと一緒に待ったのであった。
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