肩慣らし

 人気の無い森の中に私は静かに降り立った。




「ふ~さすがに遠かったな~」




 そう言いながら、私は鞄からスカートを取り出しズボンから履き替えたのだ。


 私はマリラオ村から飛び出し、海を越えこの国にやって来た。




「確か上から見えた方向だと・・・多分こっちかな」




 飛んでる時に見えた目的の場所がある方を指差して確認し、私は鞄を担ぎ直して森の中を歩き始める。


 そうして暫く進んでいると、森の中に人が通る用の整備された道が現れた。




(べつにもう隠れて進む必要無いし、こっちの道の方が歩きやすいからこの道で行こう)




 そう思い、私は木々の間から抜け出して街道を歩き出す。


 しかし歩き始めてすぐに、木々の間から数人の男達が飛び出してきて私を取り囲んできたのだ。


 私はチラリとその男達の姿を確認し、気が付かれないように小さなため息を吐いた。


 何故ならその男達の容姿は、明らかに盗賊風であり顔もザ悪者ですと言う風貌だったからだ。




(・・・いつの時代にも必ずいるな~)




 そう心の中で呆れながらも、私はとりあえず男達の出方を待って大人しくする事にした。


 するとその男達の中のリーダー格ぽい男が一歩私に近付き、自分の顎を撫でながらいやらしい笑いを浮かべねっとりと私を見てきたのだ。




「へ~女が一人でこんな所を歩いているからあまり期待してなかったが・・・結構な上玉じゃないか」


「・・・」


「くく、恐怖で声も出ない感じだな。でもまあ叫んでも無駄だけどな。何故ならここには、俺様達以外に誰も居ないからな。それに・・・この俺様達に狙われて逃げられる奴なんて居ないがな」


「お頭~今日はツイてますね~!ここまで上玉なら、結構な値が付きますよ!」


「まあな!だが・・・売る前に少し味見はしておかないとな」


「ゲヘヘ、俺達にもお裾分けしてくださいよ」


「俺様の後にな。だが大事な商品だ、壊すんじゃねえぞ!」


「分かってますって」




 そう男達は言い合い、いやらしい笑い声を上げた。


 私はその男達の様子を見て、今度は大きくため息を吐いたのだ。




「あ~もうそろそろ行きたいから、襲ってくるなり退くなりしてくれないかな~」


「なっ!?」




 まさかの私の態度に、男達は目を見開いて私を凝視してきた。




「な、なんだお前?怖がってたんじゃない無いのか!?」


「いや、全然全く怖く無いけど」


「な、なんだと!?」


「もう驚くの良いから。それに私そろそろお腹空いてきたし、早く街に行きたいからさっさと済ましてくれないかな?」


「ば、馬鹿にしやがって!!良いだろう!お望み通り襲ってやる!おい!お前ら!!とっととこの女捕まえて恐怖で泣かせるぞ!!」


「へ、へい!!」




 リーダー格の男は私の言葉に顔を真っ赤にして怒りだし、まだ唖然としていた周りの手下に声を荒げて罵声を浴びせると、手下達は慌てた表情で一斉に私に飛び掛かってきたのだ。


 しかし私はその男達の動きを冷静に視線で追い、密かに足に掛けていた風の魔法で捕まる一歩手前で一気に跳躍した。




「うぎゃ!」


「うげ!」


「ぐあ!!」




 突然捕まえられるはずの対象が目の前から居なくなり、男達は勢いを止められずにお互い激しく激突し、その場で尻餅をついてぶつかった部分を押さえる。


 私はそんな男達の姿を宙返りしながら眺め、そして男達と距離を取った場所に降り立った。




「な、なんだ今のは!?」




 そんな私の様子に、リーダー格の男は口を大きく開けて呆然と見つめてくる。


 そうしているうちに、尻餅をついた男達も痛めた部分を擦りながら立ち上り、信じられないものでも見たかのような目で私を見てきた。


 私はそんな男達の視線を受けながら、担いでいた鞄の口に手を突っ込みそしてそこから一本の木刀をすらりと抜き出したのだ。




(一応念の為にと、剣術の鍛練に使ってた木刀持ってきてたけど・・・早速使う事になるとは)




 そう呆れながらも、私は鞄を足元に置き木刀を男達に向かって構えた。




「なんなんだこの女は!ちっ、ふざけやがって!だが所詮相手は女一人だ!おい、お前ら今度は油断するんじゃねえぞ!!」


「へい!!」




 そして男達は腰に差した短剣を抜き、ギラギラ光る刀身を私に向けながらじりじりと私との距離を詰めてきたのだ。




(・・・さぁ~今生初の対人戦、肩慣らしと行きますか!)




 そうして私は口の端を僅かに上げ、そして一気に男達に向かって駆け出したのである。


 まず最初に一番近くにいた男に近付くと、まだ動揺している男の短剣を持っている手に向かって素早く木刀を叩き付けその短剣を叩き落とす。そしてすぐさま男の腹に木刀を叩き込んだ。




「うぐぅ!」




 男は腹を押さえて前のめりに倒れ込んできたので、私は止めとばかりに首へ木刀の柄で強打し昏倒させた。


 そしてすぐさまこっちを呆気に見ていた両側の男達に、目にも止まらぬ早さで木刀を打ち付け同じく昏倒させたのだ。


 そうして私は残りの男達も次々に倒していき、あっという間にリーダー格の男だけが残った。




「なんなんだなんなんだ!お前は!!一体何者なんだ!!」


「え?ただの元村娘で今は・・・まあ旅人かな」


「そんなわけあるか!!!くそ!ふざけやがって!!」




 そう怒りに内震えながら、男は血走った目で短剣を振り回して私に襲い掛かってきたのだ。


 しかし私は、冷静にその刃先を余裕で避けながら少しずつ後退していく。


 するとその時、私の背中に木の幹が当たったのだ。




「くく、もう逃げられないぜ!俺様を馬鹿にした事を後悔して死にやがれ!!!」




 そう男は叫ぶと、持っていた短剣を勢いよく私に向かって振り下ろしてきた。


 その瞬間、私はうっすらと笑みを浮かべサッとその場にしゃがんだのだ。


 すると男の短剣は目標物を失い、そのまま後ろの木に強く突き刺さったのである。




「くっ!ぬ、抜けねえ!!」




 男は焦った表情で木に深く刺さった短剣を抜こうとして、ふと私の様子に気が付いて一気に顔を青ざめた。


 何故ならニッコリと男に向かって微笑みながら私の掌には、パチパチと弾けている雷の魔法が展開されていたからだ。




「ま、魔法まで使えるとか卑怯だろう!!!」


「女一人に男が大勢で襲う方がもっと卑怯でしょう!!」




 そう私は言い放ちながら、逃げようとした男の腕を雷の展開している手で強く掴んだのである。




「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」




 男は断末魔のような叫び声を上げ、そして白目を剥いてその場に昏倒したのであった。


 私は暫く男を見つめ、目を覚まさない事を確認してから立ち上り、手に付いた砂を両手で叩いて払い落とすと回りを見回す。




「ふむ、さすがにサラスティアの時程まだ動けなかったけど・・・とりあえずまあまあだね。しかし・・・この人達どうしようかな~?このまま置いとくと、目が覚めた後また他の人襲いそうだし、だからと言ってこの人数は運べないしな・・・あ!そうだ!」




 ふとある考えが浮かんだ私は、背にしていた木に手を触れるとそこに魔法の力を送った。


 するとその木から蔦が何本も伸びてきて、地面に転がっている男達の体に巻き付きそしてそのまま宙吊りに吊り上げたのである。




「よし!これなら目が覚めても逃げられないだろうから、あとはあの街の衛兵に頼んで捕まえて貰おうっと!」




 そう吊り上げられている男達を見上げながら満足そうに頷いた私は、地面に置いておいた鞄を拾い上げ再びそこに木刀を仕舞うと、それを担ぎ直してまるで何事も無かったかのように目的地に向かって歩き出したのであった。


















 私はそびえ建つ城壁を見上げながら、感嘆のため息を溢す。




「・・・200年経っても、相変わらずこの城壁は凄いな~。あ、そうだ。あそこにいる衛兵の人達にさっきの男達の事頼もう」




 そう呟きながら、私は城門に向かって歩き出したのだ。しかしそこで、私はある事に気が付いた。




(あれ?あの城門近くに、あんな水色に輝く石なんて200年前は無かったと思ったけど・・・ん?よく見たら、城壁に沿って間隔を開けて置いてあるみたい。ん~まあ綺麗だし、多分景観用のオブジェとして置いたんだろうな~)




 私はそう思い、もう特にその石を気にも止めないで城門にいる衛兵の下まで歩いて行ったのだ。




「・・・あの~」


「ん?どうした?・・・見たところ旅人みたいだが、何か困った事でもあったのか?」


「いや、困った事と言うか・・・お願いがありまして」


「お願い?何だ?とりあえず言ってみなさい」




 衛兵は、私が言いにくそうにしているのを不思議そうに見ながらも、優しい笑顔になって私の話を聞こうとしてくれたのである。




「えっと、じゃあ・・・あの森に盗賊の男達を捕まえてあるので、引き取ってきて貰えませんか?」


「・・・・・は?」


「だから、まだのびてると思うので今の内に捕まえて貰いたいんですよ」


「え~と・・・もしかして、君が盗賊達を捕まえたと?」


「はい」


「・・・」




 私の言葉に今一つ信じられないと言った顔で戸惑っている衛兵は、近くにいた他の衛兵の方に顔を向ける。


 するとその衛兵も同じように戸惑った表情をしていた。




「・・・どう思う?」


「正直信じられんが・・・一応念の為、馬でひとっ走り見てくるよ。まだ夜まで時間があるし」


「頼む」




 衛兵同士でそんな会話をしたかと思ったら、一人が近くに繋いであった馬に飛び乗り駆け足で森に向かって駆けていったのだ。


 そして数分後、驚いた表情の衛兵が慌てて戻ってきたかと思ったら、すぐさま数人の衛兵を引き連れて森に戻って行ったのである。




「・・・君、見掛けによらず凄いんだね」


「まあ・・・たまたまですよ!あはは。では、私もう行きますね。後の事は宜しくお願いします!」


「あ、ああ。任せておきなさい」




 そうして複雑そうな顔の衛兵に別れを告げ、私は街の中に入って行ったのであった。

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