新たなる始まりの日
「・・・まじか・・・」
そう鏡に映った自分の顔を見つめながら、私は呆然と呟いたのだ・・・。
◆◆◆◆◆
先程から鏡に映った自分の顔を呆然と見ている私、レティシア 14歳。
肩までで切り揃えたサラサラの金髪に紫色の瞳をした、どちらかと言えば美少女と言われる容姿をしている。
そして何故私が呆然とした表情で鏡を見つめているのかと言うと───。
そもそも私は、このマリラオ村と言う小さな村に住む夫婦の間に一人娘として生まれた。
そして私は、その優しい父と母にとても大切に育てられたのだ。
しかし私が14歳になってまもなく・・・二人は隣町に買い出しに出掛けた帰りに、乗っていた馬車が崖下に転落してしまいそのままこの世を去ってしまったのである。
私はその二人の亡骸を目の前にした時、すがり付くように泣き崩れる事しか出来ず、そんな私を村の人達は優しく慰めてくれた。
そして何も出来ないでいた私の代わりに、二人を手厚く弔ってくれたのだ。
そうして二人が亡くなってから数日が経ち漸く落ち着きを取り戻してきた私は、いつまでも悲しんでばかりいるわけにはいけないと自分に言い聞かせ、これからの事を考えようと決意を込めて自室の鏡に映った自分を見つめた。
するとその瞬間、突然私の頭にフラッシュバックのように様々な記憶が甦ったのである。
「・・・一度あった事は二度あるって事?」
私はそう頬を引きつらせながら、鏡に映った自分を見て呟いた。
実は私の頭の中に突如甦った記憶は、レティシアの物では無く前世の記憶であったのだ。
正確には前世と前前世である。
まず前前世は日本と言う国に住んでいた、ゲームや漫画が大好きな独身OL。
(まあこの辺りの記憶は、だいぶ薄くなっていて断片的にしか思い出せなくなっているんだけどね)
そして前世は、その独身OLから転生して第二の人生を歩んだサラスティア・アルカディア(旧姓アズベルト)であったのだ。
(・・・まさか、また転生する事になるとは・・・)
私は額に手を置きながら、二回目の転生・・・と言うか前世の記憶が甦ってしまった事に呆れてしまったのである。
「・・・はぁ~まあ考えてもどうにもならないよね。思い出しちゃったんだから。それよりも、今はこれからの事を考えないと!」
そう私は気持ちを切り替え、腕組をしながら部屋の中をぐるぐると歩き回った。
「う~ん・・・確かお父さんもお母さんも他に親戚がいないと言ってたからな~だからといって、これ以上近所のおじさんやおばさんにお世話になる訳にもいかないし・・・それに、このお父さん達が残してくれた家から出るのもな・・・でもまだ私今は14歳と言う未成年だから出来る事が限られてくるし・・・はぁ~今の私もサラスティアの時みたいに魔法が使えたらな・・・ん?使えないのかな?」
私はその考えがふと頭を過り、その場に立ち止まって自分の掌を見つめたのだ。
(そもそもレティシアとなってから、魔法が使えると思った事一度も無かったんだ!)
そう思い半信半疑になりながら、サラスティアの時に扱っていた魔法の感覚を思い出しつつ掌に炎の玉を浮かばせるイメージを抱いてみた。
すると段々掌に魔力が集まる感覚を感じた次の瞬間、私の掌に明々と燃え上がる炎の玉が現れたのだ。
「うそ・・・出た・・・」
私はそう呆然と呟き、そしてすぐに次々と様々な魔法を掌の上に展開させてみせたのである。
「うわぁ・・・サラスティアの時と全く変わらない魔法が使えるのか・・・あ!もしかしてあの魔法も?」
ハッとある考えが浮かび、私は自分の足に視線を向けて意識を集中させた。
するとゆっくり足の裏から床が離れ、私は天井近くまで浮き上がったのである。
「・・・飛行魔法までバッチリなのか」
そう呆れながらも、私は久しぶりに感じる浮遊感を楽しみながら天井近くを旋回して飛んだのであった。
そうしてある程度満足した私は、再び床に足を着け特に体に異常が無いか確認してから大きく一つ頷いたのである。
「よし!この力があれば一人でも生きていける!幸い庭には小さな畑もあるし、自給自足でなんとかなりそうだ!」
私は拳を握り締めそう力強く言い切ったのだ。
「だけど・・・私が魔法が使える事は、他の人には黙っておいた方が良さそうだね。こんな小さな村で魔法が使える人なんていないし・・・あ~一人いたわ・・・」
そう呟き、その人物の顔を思い浮かべて嫌な顔になった。
その人物と言うのは、この村の領主の息子で私より一つ年上の男の子。緋色の髪に茶色の瞳をしており名前をラウル・マクシエルと言う。
ラウルは領主の息子である事を鼻にかけ、何故か昔から何かにつけてよく私に絡んできたのだ。
そしてそのラウルが6歳の時に、魔法の力が開花しすぐに私にその力を見せて自慢してきた。
しかしその魔法と言うのが・・・ロウソクの炎ぐらの小さな火が出せるぐらの力だったのである。
正直そんな魔法を見せられた当時の私は────
『ショボ!!それぐらいなら魔法の必要性無し!!』
とウザイほど自慢してくるラウルに、思わず言い放ってしまったのだ。
まあその後、ラウルが顔を真っ赤にして怒り出したのは言うまでもない。
「まあ・・・次の日にはケロッとした顔で現れたけどね」
私はその時の事を思い出し一人苦笑いを溢した。
するとその時、玄関の扉を強く叩く音が聞こえてきたのだ。
「・・・この時間に誰だろう?」
私はそう呟き、夕陽が射し込んでくる二階の自室の窓から玄関先を覗き見た。
「・・・噂をすればなんとやら」
そう頬を引き攣らせながらも、私は仕方がないとばかりに玄関まで降りて行き、そして玄関扉をゆっくり開けるとそこには、先程まで思い出していた緋色の髪の男の子が少し大きくなった姿で立っていたのだ。
「ラウル・・・」
「レティ!出てくるのが遅いぞ!!」
「いや遅いって・・・普通女の子が一人で住んでたら、警戒して外確認してから出てくるものでしょうが」
「ま、まあ確かに・・・・・意外に元気そうだな・・・」
「ん?まあ、いつまでも落ち込んでるわけにはいかないからね。で、何の用?私これからの事を考えて色々やらないといけないんだけど・・・」
「そ、そう!それだ!俺が今日来たのはその事についてだ!」
ラウルは最初私の様子に戸惑った様子を見せていたけど、急にいつもの自信満々のニヤリ顔になり私はなんだか嫌な予感を感じた。
「えっと・・・どう言った事?」
「喜べレティ!お前はこれから一人じゃないぞ!」
「へっ?」
「俺が父上に掛け合って、お前を俺の屋敷で住めるようにしてやったんだ。感謝しろよ!」
「・・・・・は?何で?」
「何でってお前・・・女のそれも未成年が一人で暮らしていけるわけ無いんだろう。だから、俺の所で暮らしていけるようにしてやったんだ。どうだ嬉しいだろう?」
「いや、嬉しくもないし行く気も無いから」
「なっ!?」
「ラウル・・・私の事を気にしてそうしてくれた事は有り難いけど、正直一人でも暮らしていけるからさ。だからその話はお断りしますと領主様に伝えておいてね」
「お、おい!レティ!?」
「と言うことで、本当に私忙しいから気を付けて帰ってね。バイバイ!」
「ちょ!待て!!」
まさか断られるとは思っていなかったラウルは、慌てた表情で私に向かって手を伸ばしてきたけど、私はそんなラウルを無視して勢いよく扉を閉めたのだ。
そして開けられないようにしっかりと鍵を掛けた。しかし、その扉を外からラウルが激しく叩いくる。
「おい!レティ!!開けろ!!」
「・・・」
「レティ!!」
「・・・領主の息子が、一人暮らしの女の子の家の前でそんな大声上げてると色々不味いんじゃないの?」
「っ!!・・・また来るからな!!」
私がボソッと扉の外に向かって言うと、ラウルは悔しそうな声で捨て台詞を吐いて去って行ったのだった。
「・・・はぁ~やっと行った。しかし・・・ラウルの家に私が住む?いやいや冗談じゃない!もし住んだら、気軽に魔法使えなくなるじゃん!それになにより、毎日ラウルに絡まれるの正直面倒くさい!!」
そう言って私は、近くにあった椅子に疲れたように腰を掛けたのだ。
そして何気無く回りを見回すと、ふと少し前まで賑やかだった様子が思い出され思わず目元がうるっとしてきてしまった。
「駄目だ駄目だ!」
私は急いで頭を横に振り、悲しい気持ちを吹き飛ばす。
「さあ、これからは一人で生きていかないといけないんだから!頑張ろう!!」
そう拳を握り締めながら勢いよく椅子から立ち上り、決意を込めてそう声を上げたのだった。
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