東雲のときに…

柚原涼

第1話 「春風」

桜の木が大きく揺れる。

四月の終わり、散りゆく桜の木の下で1人の男が立っていた。

-はぁ…

その男-夢野ゆめの 佳祐けいすけはある悩みを抱えていた。最近彼はよくここに来てはじっと立っている。

-どうすれば良いのだろうか…

「何やってんだお前。」

夢野はハッとして後ろを見た。中学校以来の友人、かい 慎也しんやである。

「何でもいいだろ。なんか用か?」

「ニヤつきながら喋んじゃねえ。そろそろ授業始まるぞ。」

「へ?」

夢野は時計を見た。授業開始まであと10分である。

彼は何も言わず、疾風のごとく走り去っていった。

「何なんだあいつ…」

夢野の思考回路は長年一緒の海でもわからない時がある。

「俺も戻らねぇと。」


県立三歌高校に2人が入学してもう2年が過ぎた。

2人は吹奏楽部に所属している。夢野はバスーン、海はトロンボーンである。

同じ中学校なだけあって仲は良かった。

ただ夢野は海に対してコンプレックスを抱いていた。海が運動神経が良いこと。そこそこ顔立ちが良いこと。社交的で人気がある事。そして、彼女がいる事。

海は悪い奴ではないのだが、夢野はどうしても海に引け目を感じざるを得なかった。

-はぁ…

「何ため息ついてんのwwwwもうお迎えが近いのwwwww」

「いきなり殺すなし。」

フハハハハと意味不明なノリで、夢野と同じ吹奏楽部の女-園川そのかわ さつきが話しかけて来た。

「あっ、またあの子を見てるの?」

「見てない。見てない。」

「分かり易過ぎワロタwwww」

-こいつ、腹立つ。

夢野はどうにか怒りを抑え、必死に反論していた。

しかし、園川が言う通り、夢野はある女を見ていた。

夢野の悩み、

それはその女-東雲しののめ 爽香さやかが気になっている事である。



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東雲のときに… 柚原涼 @Krift-mars

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