夏の宿題
青山えむ
第1話
彼女が欲しい。彼女が欲しい。彼女が欲しい。最近同じ事ばかり思っている。思っているだけじゃない。女子を見かけたら笑顔で話しかけて褒めるようにしている。女子というものは褒められると、心を開きやすくなるらしい。
やっぱり見た目は重要かと思い、外見に気を遣うようになった。サッカーやジムに通い体を絞り、スリムなジーパンやTシャツを着こなせる体型まで来た。この体型を維持する為に、運動は続けている。そしてそれをSNSで一応、少し、アピールもしている。あざとくても何でもいい。使えるものは使うのだ。
友達にも、誰か僕にぴったりな子がいたら紹介してくれ! と云ってあるし(懇願)自分でも飲み会なんかをよく企画する。
色々やっているが、手応えはほぼ無い。しかし平日でも飲みに行くような奴等が周りに多いので、結構愉しく過ごしている。
○
今夜は友達が月イチで主催しているイベントに遊びに行く。バンドやDJ、演劇などの多種混合イベントだ。僕は時々バンドで参加している。今日は客としていくので飲んだくれても問題無い。
市内のライブハウスを貸し切って開催するこのイベントには色んな人が来る。僕もバンドをやっているので、バンド関係の繋がりはそこそこある。けれども演劇関係者と知り合う機会はまず無いので貴重な出会いだ。演劇をやっている人のアドリブは、アドリブだと気づかない程のレベルの高さに驚かされる。
バンドが目当てで来る女の子も可愛い。バンドメンバーが女の子と話している所にさり気無く交ざってみる。こうして地道に知り合いを増やしていく。
「涼介」呼ばれたので振り向くと麻衣がいた。
麻衣はイベントでよく顔を合わせる同い年の小柄女子だ。ライブやDJタイムのフロアでよく踊っているノリの良い、演者には有難い存在だ。
麻衣の今日のファッションはキャミソールにデニムのミニスカートだ。初夏といえども夜風はまだ冷たいが、熱気に包まれたイベント会場では丁度いい露出だろう。麻衣は顔は結構可愛いしよく話すけど、どうも恋愛対象にはならない。
『もし麻衣が彼女だったとしたら』と妄想した時、あの露出の高い服はちょっと嫌かもしれない。あと仲の良い男に対して、気軽にスキンシップが多いのがもやもやしそうだ。
麻衣とはいつも通り世間話をした。
中学から仲の良い佐野も来ていた。佐野とはよく「彼女欲しいな」と云い合っている。はたから見たら気持ち悪いだろう。
「可愛い子、いた?」佐野が聞いてきた。
「いつも通りの可愛い子の比率だよね」と答えた。
新規の可愛い子はいない、という意味だ。
「涼介、乾杯!」突如現れた山谷さんと乾杯をした。山谷さんは僕より一回り程年上のナイスガイだ。山谷さんもバンドをやっているのでよく共演したりする。
すると由美さんが近づいてきた。由美さんはイベントによく来る謎多き美女だ。多分僕より年上だとは思うけれども年齢不詳。艶々の黒髪ボブに色白で肌が綺麗なのでますます年齢が解らない。
いつだったか先輩が「いくら若作りをしても肌を見れば解る」と云っていたので、僕は女性の肌を見るようにしている。勿論、気づかれないように凝視する。
僕と山谷さんと由美さん、三人でトークする形になった。
「由美ちゃんって彼氏いるの?」山谷さんがいきなり云った。由美さんにそんな事を聞けるのは山谷さん位だろう。
由美さんの私生活を知っている人は多分あまりいない。由美さんは、ほぼ毎月イベントに来るけれども打ち上げなどには一切参加しない。どちらかというと聞き上手なイメージがある、つまり自分の事はあまり話さない。実際僕も由美さんと話す時は、自分の事ばかり話している気がする。受け止めてくれる感に安心して、つい本音を云ってしまう。
由美さんは彼氏がいないと云った。驚いた、あのルックスなら確実に恋人がいるだろうと思っていたので僕の恋愛対象リストからは外れていた。一変した。由美さんにアタック決定だ。
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