第13話表情

 Yunの部屋に、2人は入った。二人とも、サングラスを黙って外す。目を、見つめ合った。

「Roi、先にシャワー浴びていいよ。タオルとパジャマ出しとくから。」

Yunは、今までになく艶めかしい表情で言った。

「うん。サンキュ。」

RoiはYunの顔を見つめながらも、シャワールームの方へ歩き出した。Yunはちょっと笑って、先に立ってシャワールームのドアを開け、電気をつけた。そして、ニコっと笑ってドアの外に消えた。Roiがシャワーを浴びて出てくると、

「はい、タオル。これ着替えね。」

Yunはタオルを手渡し、着替えを指さした。ここは男同士、特に遠慮もなく、今度はYunが服を脱いでシャワールームに入った。Roiはベッドルームへ行き、ベッドに腰を掛けた。部屋を見回す。ここでRoiの写真がたくさん飾ってあったりしたら、ドラマのKaiと同じなんだけどな、とちょっと笑みを浮かべながらぐるりと見回すと、窓の外の夜景と、そしてその横にあるコルクボードが目についた。コルクボードにはいくつか写真がピンで留めてある。立って行ってその写真を見てみると、それはRoiとYunが二人で写っている写真だった。出会った日の、オーディション会場で撮った写真、ドラマの撮影の合間に撮った写真、ビーチにロケに行った時の写真、ファンミーティングで外国を回った時に撮った写真。

 いつの間にかYunが隣に来ていて、寄りかかってきた。

「Kaiと同じだと思った?」

Yunが聞く。

「うん。いや、違うな。Kaiが飾ってたのはSyu一人の写真だけど、ここにあるのは俺たち二人の写真だろ?」

Roiがそう言った。

「そうだね。」

Yunはそう言ってから、ベッドにダイブした。Yunのベッドは大きい。二人でも十分寝られる。ただ、Yunは寝相が悪いのだ。だから大きいベッドが必要なのだろう。Roiもベッドに乗った。Yunがベッドを半分どうぞと手で示す。そして枕に寄りかかって座った。RoiもYunの隣に座る。

「Roi、今日は会えて嬉しいよ。」

Yunは夢見心地にそう言って、Roiを横から抱きしめた。RoiもYunを抱きしめる。ファンミーティングではよくしていたことだが、二人きりでこのような格好をしたのは初めてだった。いや、あの初日の訓練の日以来か。だが、だいぶYunは変わった。ぽやっとした男の子だったのが、あか抜けたカッコいい男になった。あれからもう一年だ。成長盛りの少年には、一年は長い。あのお餅みたいだった頬は、今はどうなったのか、Roiは急にそれが気になった。触りたい。Roiは片手でYunの頬に触れた。

「何?」

「まだ柔らかい。」

Yunはくすっと笑った。

「今夜はずーっとこうしていたい。」

Yunが更にRoiをぎゅっと抱きしめて、顔をRoiの胸に擦り付けた。

「顔を見なくていいのか?このハンサムな顔を。」

Roiが冗談っぽく言うと、Yunは顔を上げた。Roiは顔をYunの顔に近づけた。Yunは目を閉じた。が、次の瞬間、

「なーんてね。」

と言って目を開けて笑った。少年っぽく。さっき甘えてすり寄ってきたのは演技だったのか?といぶかしむくらい、急に男っぽくなった気がして、Roiは驚いた。けれど、男っぽいのと艶めかしいのとは相反したものではない。Roiは急に落ち着かなくなった。さっきまでは子供を抱っこしているような感じだったのに、そうではない、と強く意識したのだ。

「Yun。」

RoiはYunのあごをくいっと上げさせ、唇を見た。艶めかしい唇。自分はかつてこの唇に何度もキスをしたのか。今、どうしてもキスしたくなって、Roiは唇を近づけた。すると、自分にしがみついていたYunの体がこわばったのを感じて、ちらっとYunの目を見る。

 はっとした。その時Yunは、さっきまでの笑顔とは違った、切ないような、もの悲しいような表情をしていたから。そう、キスシーンを演じた時にだけ見せた、あの表情だった。

「Yun、どうしてそんな顔をする?キスは嫌か?」

「違うよ。胸が苦しいんだ。」

Yunが更に苦しそうな顔をしてそう言ったので、Roiはそれこそ胸が苦しくなった。そして、血が逆流したような気がした。がばっと体を翻し、Yunをベッドに押し倒した。そして、ゆっくりと、唇を重ねた。だが、唇が重なった瞬間、また血が逆流し、荒々しくキスをした。Yunはびっくりした。Roiがキスシーンを演じるところは何度か見た事があるけれど、こんなのは見た事がない。体に電撃が走るのを感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る