異世界をチートとハーレムと旅行と

@ikenob

第2話 ジュルク村.1


村は木の柵で囲まれ、入り口に門まで付いている

小川沿いの集村はパッと見て20件は無いであろうと思える

木造の平屋が立ち並ぶ、山間の小さな村である

歩いてきた道が領外の魔の森からという事はこの村は端っこの村と予想する

村の入り口に門が有るのは魔の森が危険だからなのであろうと考える

見張りも居なく門も開いている、思った程危険ではないのかなと考えを改める


村の門をくぐり村の中に入り何処かに村人居ないかなと周りを見回す、と

第一村人発見である

年の頃は8歳か9歳位の少年が水桶を抱えて歩いている


「こんにちは」


少年に声を掛けると此方に気が付いた少年が振り向き、無言で見つめてくる

金髪に青い瞳の少年である、汚れたシャツにオーバーオールのズボンである


「家の人はいるかな?」


少年は無言である、無言で俺を見ながら答えずに家の中に入っていく

少年の入っていった家を覗き込み声を掛ける


「ごめんくださーい」


薄暗い室内の中、女性がエプロンで手を拭きながらこちらにやってくる

少年と同じ金髪に青い瞳の女性

白い肌で痩せ気味の貧乳さん、頬が少しこけているが美人である

少年は女性の後ろに隠れながらこちらをのぞき見している


「始めまして、自分は魔法使いのマサトと申します」


女性に出来るだけ丁寧な姿勢で話しかける


「はい?」


女性は不思議そうな顔で俺を見る

あれ?言葉が通じないのかな?


「食料が尽きて困っています、何か仕事はありませんか?」


更に、続けで話しかけてみる


「うちにはもう余裕がなくて」


やった、通じた言葉は問題ないようである

しかし、余裕がないと言われてしまった

小さな村では余所物がいきなり来ても余裕なんて無いのかもしれないと考える


「そうですか、ありがとうございます」


残念であるがお礼を言って家から出るとする

が、家を出ようとしたところで男の人にぶつかりそうになる

男は軽い足取りで身をかわしてくれたのでぶつからずに済んだ


「すいません」


とっさに謝る


「こちらこそ、すまん」


男も謝罪の言葉を掛けてくれる、人のよさそうな人だと安堵する

が、男の姿を見て驚く

男は濃紺の体毛、頭の上に尖った三角形の耳が付いている

痩せ型だが野性味溢れる引き締まった体形である

獣人である2足歩行の狼の風貌、カッコイイ

が、毛皮の上に洋服を着ていることにも驚く

しかし、この世界には獣人族がいるのかと感動する

はやく猫と兎を見たいものである、ものすごく楽しみである


少年の家を出て村の中心の方に歩いて行く事にする

しばらく歩くと声を掛けられる


「ん?君は?」


声の方向は右後ろかなと振り返ると木の塀の横に人がいた

栗毛で細身で目が線の人、手に弓を持ち腰に短刀を差している

反対の手にはウサギを二羽か三羽持つ男性である


「自分は魔法使いのマサトといいます、ちょっとこの辺りまで来たのでお話でもと」


出来るだけ笑顔で話しかけてみる


「魔術師のマサトさん、ね」

「そうだね、うん」

「では、付いてきて」


男は俺の頭からつま先まで観察して、色々納得してから付いて来るように言う

言われるままにしばらく猟師風の人の後ろを付いていく

道沿いの、俺が入ってきたとは反対側の門のそばの家

木造りの平屋で薪が幾つか入り口に置いてある

猟師風の男は無造作に木造の家に入っていき声を上げる


「リヨーン、どこだーい…リヨーン」


「おー、どうした?」


俺の後ろ、玄関の外の方から野太い声がした

驚いて振り返ると赤髪のおっさんがいた

背が高く筋骨隆々である、腰には短刀を差している


「ジョン、こいつは?」


リヨンと呼ばれた男が俺を頭からつま先まで観察しながら猟師の男に問いかける


「魔術師のマサトさん…で、話がしたいそうなんだ」


ジョンと呼ばれた男がチラリと俺の方を見る


「ほう、魔術師さんで…俺に話があると?」


俺を見る目が段々と険しくなってきた

なんか、怖い


「僕はこいつの処理してくるよ」


ジョンさんはウサギを持ち上げながら扉から出ていく


「おう、あとでな」


リヨンさんはジョンさんを送り出してテーブルの傍の椅子に座る

テーブルの上の水差しからカップにお茶を注いてテーブルの上に置く

俺の方を見て傍らの椅子を太い指で指さす


「座りな、話ってヤツを聞かせてもらおうか?」


リヨンさんはカップに入っているお茶をグイっと一気にあおり飲む


「はぁ、よろしくです」

「自分は魔法使いのマサトといいまして」

「お腹が空いてまして、仕事を手伝う代わりに食料をいただけないかと」

「思いまして、はい」


俺はお茶の入ったカップからチビチビとお茶を飲みながら話す


「ほう、仕事をするから食料が欲しいと?」


眉間に皺を寄せて睨みながらリヨンさんは聞き返してくる


「はい、朝から何も食べて無くて」


答えながらリヨンさんを見るが、疑いの目で睨んでくる

むちゃくちゃ怖い、よそ者はこんなに疑われるものなのかと驚く


「ふーん、まぁ…これでも食ってくれ」


リヨンさんはしばらく俺を睨んでから立ち上がりキッチンのカウンターに向かう

カウンターの上の籠からパンと干し肉を取り出し俺に投げてくる

テーブルの上でパンと干し肉がカンカンと音をたてる

パンと干し肉を手に取ると、とても固そうに感じる

木の皮の様に硬く塩辛い干し肉をカップの水でふやかしながらかじる

これまた石のように硬いパンを水でふやかしてからかじる

食べるだけでひと苦労である。あごが痛い


「それであんたは何処から来て、何処に行く予定なんだ?」


リヨンさんはカウンターに寄りかかり俺をまだ睨む


「気が付いたらこの先の森に居まして」

「出来れば町か何処かに行っていったん落ち着こうかと」

「落ち着いてからその先は考えようかと」

「思ってます、はい」


現状では何をすればいいのか考えられない

いったん、落ち着きたいと思う


「ふーん、当面は町に行くのが目的か」


リヨンさんは腕を組み疑いの目で見てくる


「はい、できましたら働かせて貰って町に行くまでの準備をさせてもらえばと」

「考えてます、はい」


とはいえ、町の場所もわからない

当分はこの村で色々と教えてもらいたいと考えている


「それでその恰好は?」


俺の格好は黒地に蛍光イエローラインのジャージで足元はサンダルである

やはり気になる事であろう


「部屋着ですね、はい」


余計な事は言わないで端的に説明することにする


「部屋に居たのに、気が付いたら魔の森に居たのか?」


ますますリヨンさんが疑いの目を向ける


「そんな感じです、はい」


リヨンさんの目が怖いので恐縮しながら話す


「へー、それはそれは不思議な事だな」


リヨンさんは話を信じているとは思えない

疑うというよりは測り切れていない感じなのだろう


「えーっと、今日の早朝にうちの師匠が試練を与えるとか言ってましたので」

「もしかしたら、試練なのかもしれません」


とりあえず、設定を付け足して適当に誤魔化して置く


「ほう、試練ねえ」


リヨンさんは信じきれないが、着ている服装が気になるようである

ポリエステルの風合いは此方では高価そうに見える事だろう

無下には出来ないのかもしれない


「かと、すいません自分でも何が何やらで整理できていないです」


「ふーん」


リヨンさんはあごをさすりながら何やら考えている様子

しばらくして開けっ放しの扉を出て木の板を打ち鳴らす


カーン、カーン、カーン…カーン、カーン、カーン…カーン、カーン、カーン…


3回叩いて休んでを繰り返す、何の合図だろうか?

リヨンさんはそのまま家の前の庭にでる

俺はパンと干し肉を齧りつつ家の入り口に向かう

リヨンさんの家の前の庭には村人が1人また1人と集まってくる

何やら話をしているようである

此方の方ををチラリチラリと何人かの村人が見てくる

格好が格好だけに当然に怪しまれているのだろう、よそ者だし


「マサト、こっちに来てくれ」


リヨンさんからお呼びが掛かったので家の前の庭に出て行く


「マサトはジョンに預ける、マサトはジョンの仕事を手伝ってくれ」


ジョンさんは了解と右手を上げる

怪しいからと追い出さない辺りは優しい人なのだろうと考える

しかも仕事まで与えてくれるのである、とても良い人なのかもしれない


「ジョンさん、よろしくお願いします」


ジョンさんにペコリと頭を下げて挨拶をする

いやー取り敢えずは良かったと安堵である


「はい、よろしく」


ジョンさんが細い目をより細める


「じゃあな」

「またな」

「よろしくな」


村人が次々と言葉を残し解散していく

ところで

村の入り口の方から、ガタガタガタガタと音が聞こえてくる

音の方向を見ていると2頭立ての幌馬車が村の中に入ってきたのが見える

何と馬車である

馬車とは珍しいので眺めていると視線を感じるので振り返る

ジョンさんが俺と馬車を交互に見ている?

まわりを見回すと他の村人達も立ち止まり俺と馬車を交互に見てる?


「ジョンさん、隠れたほうがいいですか?」


皆の視線が気になってジョンさんに聞く

もしかしたら此処に居たらまずいとかかもしれない?


「えっ?」

「いや、大丈夫だよ」


俺の言葉にジョンさんが驚いたように答える


馬車に向き直ると、止まった幌馬車の中からバーコード禿が出てきた

御者台にチビでデブでバーコード禿が立つ

それなりに綺麗なシャツにチョッキに上着を着ている、身なりは良さげだ

傍らから魔術師のローブに水晶の付いた杖持ちの男も出てくる

魔法使いの先生ってやつだな

こんな登場の仕方は悪党確定わかりやすい

いつの間にか馬車の左右に武装した4人ほど立っていた

2人が盾を持ち腰に剣をぶら下げてる、1人は両手剣で1人は弓持ち


「ネイサン、食うに困ってフランクの護衛か?」


リヨンさんが武装している男たちに向かって声を掛ける


「まぁそんなところだ、正式なギルドの依頼だしな」

「これも仕事だ、悪いなリヨンさん」


ネイサンと呼ばれた男がバツが悪そうに答える

どうやらお互いに面識が有るようである


「わかった、気にするな」


リヨンさんが苦笑する


「旧交を温め終わったか?」


バーコード禿が見下すような態度で横から口を出す


「ああ…それで何の用だ?」


リヨンさんが嫌そうな顔で答える


「村に新入りが居たと聞いてな、そいつか?」


バーコード禿が俺を指さして睨んでくる

さっき来たばかりなのに、なんで俺なのかと聞きたくなる


「フランクさん、あっちの獣人です…こいつも新入りのようですが」


バーコード禿の傍らの魔法使いの先生が俺のはるか後ろを指さす

指さした先には先ほどぶつかった獣人が仁王立ちしていた

バーコード禿は獣人を睨んだ後リヨンさんに向き直る


「村人を増やす話は聞いてないが?」


バーコード禿は俺の方にもジロリと睨んでくる

しかし、バーコード禿なんて怖くありません

リヨンさんの方が数倍も顔が怖いのである


「ヤツもコレも旅人だ、臨時の仕事が終わったら出ていく」


リヨンさんが言い返すがコレ扱いです

まあ、いいけど


「素行の悪い旅人はさっさと追い出せっ!」


バーコード禿が1人でエキサイトし始める


「仕事が終わったらな」


冷やかに返答するリヨンさんにバーコード禿もこれ以上かける言葉も無いようである

ぐぬぬぬぬ…っと、バーコード禿がリヨンさんを睨んでる


「とっ…とにかく、さっさと追い出せっ!わかったなっ!」


バーコード禿の負けである、捨て台詞を吐いて幌の中に戻っていく

魔術師も此方を一瞥してから幌の中に入っていく、感じの悪い奴らである

バーコード禿の護衛たちは気軽にリヨンさんに挨拶をして馬車に乗り込む

馬車は入ってきた門からガタゴトガタゴトと音を立てて出て行く

馬車を見送ってみな帰っていく



俺はジョンさんに連れられて、井戸に向かう

井戸のそばでは女の人と女の子がウサギを肉に変えている


女の人はジョンさんの奥さんでマリーさんと紹介される

濃い目の金髪で首の後ろで束ねている、若く見えるけど30歳前後かな?

細めの手には肉切包丁を持ち、ウサギの解体中である

胸は大きく柔らかそうである、掌からこぼれるほどのナイスバディー

ガン見するわけにいかないので少女の方を見る


少女の名前はエリシャちゃん、ジョンさんの愛娘である

マリーさん似の金髪を頭の左右で結っている、キャンディーの様である

ウエーブ掛かった髪質はジョンさんから受け継いだのだろう

今はぺったんこだがマリーさんが母親である、将来は約束されているも同然

8歳位だろうか、井戸の水でウサギの肉を洗っている


「マサトさんは、なめしの経験は?」


ジョンさんはウサギの毛皮を手に取り、残っている肉をこそぎ始める


「ないです」


即答である


「解体の経験は?」


ジョンさんはちょっと考えてから更に聞いてきた


「ないです」


都会に住んでたら普通はそんな経験は無いよね

さらにインドア派の俺には経験があるはずもない


「では…エリシャと一緒に肉を洗ってくれますか?」


「りょうかいです」

「エリシャちゃん、よろしくお願いします」


「ん」


濃い碧色の大きな目を真っ直ぐ向けて、水桶を渡してくる

エリシャちゃんは無口系美少女枠のようである


「汲みます」


エリシャちゃんから水桶を受け取り、井戸の汲み用桶から井戸水を移す

手桶に井戸水をいてれエリシャの傍に置く

井戸水を汲んだのも初めての経験である、楽ではない…いや、しんどかった


「ん」


エリシャちゃんは頷いて答えてくれる



「マサトさんは何方から来られたのですか?」


納屋に戻ってウサギの肉を塩漬けにしながらおしゃべりである

マリーさんは声まで綺麗である


「そうだね、珍しい格好だしね」


ジョンさんもやはり俺の格好に興味をお持ちのようです


「はい、それがよくわからなくて」


「ほう?」


ジョンさんが興味深げである


「今日の早朝に、うちの師匠から試練を与えるとか言われまして」


「試練ですか?」


「気が付いたらこの先の道に居ました」


「魔の森の方の?」


「はい、そっち側ですね…まさか森を抜けるとか、無理ですよね?」


「普通は無理ですね、失礼ですがマサトさんの魔法の実力は?」


「比べたことが無いのでわからないですが、初心者に毛が生えた程度かなと」


「いえ、冒険者登録は?冒険者ギルドのランクは幾つです?」


ほう、ここには冒険者ギルドが有るのかとちょっと嬉しくなる

これは登録しないとだね


「冒険者登録してないです、師匠は人里から離れて住んでましたので」


「ふむ…人里から離れて暮らしていて、なめしも解体も必要なかったのですか?」


ジョンさんはチラリと俺の方を見る

そっちで突っ込んでくるかー


「えぇ…食事とかはやってくれる人が居ましたので」


「そうですか、さぞや高名な方なのでしょう…名前を聞いても?」


「えーっと、マーリンとかいう爺さんですが…ご存知です?」


「いえ、聞き覚えないですね」


よかった、マーリンなんて魔法使いがいなくてホントよかった


「それで、これからどうされるんです?」


「着の身着のまま飛ばされて食料もお金もなくて、しばらく働かせて貰えればと」


「そうですね、そのへんはリヨンと相談してみましょう」


「よろしくお願いします」


つじつま有ってるよな?

うまい具合に設定を作らないとまずいよな…きっと



夕暮れ前に奥様方は井戸に集まる、井戸端会議と夕食の食材の仕入れである

井戸の水で野菜を冷やしており

塩漬けの肉の塩抜きもしてある

収穫物が置いてあるので必要な分を持っていくのだ

ジョンさんと番をしながら奥様方に紹介される

気が付いたのだが、若い人が居ない

子供かおばさん以上の年齢の人ばかりである

ジョンさんに聞いたら男も同じらしい

子供は成人になったら村を離れて行くと言っていた

やっぱり若者は村を捨てて都会に行くのであろう

何処の世界も同じなんだなあ、などと考える

あと、この村には獣人は狼獣人のアランしかいないそうだ…レアなのかも



リヨンさんの家でリヨンさんにジョンさんと俺の3人でテーブルを囲む

台所ではリヨンさんの奥さんがウサギの肉シチューを作っている

ふっくらぽっちゃりな後ろ姿のおっかさんである

ジョンさんの家での会話のおさらいと続きである


「それじゃあ総出で狩りして、デカい獲物数匹で報酬の形にするか?」


リヨンさんが腕を組み天井を仰いで考えているようである

何かしらの村のイベントにでもする気なのかな


「そうだね、カーゴの魔法が使えるなら運搬も簡単だしね」


ジョンさんがこちらを見る


(シス、カーゴの魔法って?)


(はい、カーゴは風魔法で運搬の魔法です)


(俺でも使えるかな?)


(はい、問題ありません)


「問題ありません」


「ほう、そいつは便利だ居る内に大物狩り大会をやるか」


リヨンさんはニヤリと笑う


「詳しい話は夕食後の集会でしよう、僕は帰るよ…じゃあ、後でね」


ジョンさっは話の切りの良い所で席を立つ


「おう、後でな」


ジョンさんに続いて席を立とうとした所で肩を捕まれて座らされる


「おまえはうちで飯だ」


「はい、いただきます」


硬めのライ麦パンにウサギの肉野菜のシチューをいただく

常温で冷ました煮出し茶を入れてもらって一息つく

食後にまったり

薄口の味だが、これならこっちの世界でもやっていけるかもしれないと考える

昼に貰った石のように固いパンと塩辛い干し肉が普通の食事じゃなくてよかった

まともな食事ができて本当に良かったと考える



リヨンさんが口に枝をくわえて、パンイチで家の奥から出てくる

ポイっと俺に手拭いを放り投げてくる


「風呂いくぞ」


「風呂あるんですか?」


「当然だろ?未開の土地じゃねーんだから」


なんとも嬉しい話である、水浴びは夏以外は辛すぎる


「それじゃーかーちゃん、いってくる」


リヨンさんはかまどから火を貰い、松明に火を付る


「あいよ、いってらっしゃい」


「行ってきます」


俺も手拭いを持ってリヨンさんを追いかける


風呂場はウサギを解体した井戸だった

屋根があり、木の塀に囲われていた理由を理解した

井戸が真ん中にありその横に人が入れるくらいの浅い木桶に水が汲んである

夕方に野菜を冷やしていた大きな桶である

そして…夕暮れ前になかったドラム缶風呂がある

子供が入れるくらいの小さいドラム缶と大人が余裕で入れるくらいのドラム缶

ドラム缶を2つ並べて下から火を焚いている

大きなドラム缶の方には、中と外に木の階段が付いている

ドラム缶の底にはすのこが敷いてある、至れり尽くせりである

小さなドラム缶は水桶が入っている

すくったお湯を井戸の横の大きな木桶に入れて温度調節して体を洗うようだ

この場所は解体から野菜洗いや食器洗い衣服の洗濯から風呂まで、重要施設である

男衆の風呂が終わったら女衆が汚れ物持って集まるとの事

みんなで洗いながら風呂も済ませるとか合理的である

リヨンさんは松明を壁に掛ける

硬い石鹸で頭と体を洗い湯船に浸かる

湯船はいい…素晴らしい

男衆は石鹸で頭と体を洗ってお湯で流して終わりである

サッと洗って風呂に浸からないで出ていく

たまに湯船に入る人も居るが、ザパッと入ってすぐ出ていく

長く浸かる人は殆ど居なかった

獣の人も子供連れで来ていた

金髪碧眼の第一村人の少年である

仲の良い親子のような…種族は違うが、そんな風に見える

いや、少年とペットかも


「マサト、行くぞ」


のんびり湯に浸かっていたらリヨンさんに催促される


「はい、今行きま」


急いで手拭いで体を拭いて服を着る

リヨンさんは枝をくわえたまま、松明片手にパンイチで…手拭いを肩に先に行く


リヨンさんの家に戻ると大勢の話声が聞こえてくる

村人がリヨンさんの家に続々と集まってくる

逆に手提げのカゴに食器を詰め込んだリヨンさんの奥さんとすれ違う


「中でみんな待ってるわよ」


「おう」


リヨンさんが松明を奥さんに手渡す


「じゃー行ってくるから」


「おう、行ってらっしゃい」


家の中でジョンさんが出迎えてくれる


「もうみんな集まってますよ」


「アランもか?」


「ええ、彼も来てもらっています」


「わかった」


リヨンさんが奥の扉を開けると、広間には男衆が集まっていた

一斉にこちらを向く、俺を見ている?


「魔術師のマサトだ、旅人で仕事を手伝って貰うことになった」


リヨンさんが紹介してくれる


「どうも…魔法使いのマサトです、よろしくです」


軽く会釈する

男衆が疑問の目で頭のてっぺんから足元まで眺めてくる

黒地に蛍光イエローラインのジャージですしね…致し方ない


「さて、今日集まって貰ったのはフランクについてだ」


話を聞いていると、どうやらバーコード禿は村に嫌がらせをしていると話している

護衛とは別に盗賊まがいの連中を雇って作物を荒らしてくるらしい

さらには町への納品の邪魔をしてくるようである

盗賊行為なら殺しても罪にならないらしいが、そこまではしてこないようだ

あくまでも嫌がらせの範疇を超えない…憎らしい話である


先日も魔術師がマリアンさんに嫌がらせをしてきたとか

怒った息子のジョーイ君が魔術師に飛び掛かり逆に殺されるところだったとか

アランが魔術師を止めなければ危なかったとか

もういい加減我慢の限界だとか

冒険者ギルドのギルド長に掛け合うべきだとか

いっそのことフランクを殺すかとか

村人の発言がヒートアップしてきた


物騒な話になってきた所でリヨンさんが止める


「物騒なことは無しだ、明日にでも町に行ってギルド長に相談してこよう」

「明日はルーアンの納品の日だったな」


「おう、そうじゃ」


答えるのは赤錆色のボサボサの髪に胸まで届くモサモサの髭

背は小さいが体の厚みは2倍、体重は3倍はありそうなドワーフ族のおっさんである


「では、俺とルーアンとヘンクとライカーで町に行く」

「他の者はいつも通りで、奴らが来ても殺すなよ」


リヨンさんの言葉で集会は解散になった

皆が出ていく、奥でリヨンさんと数人残って何か話をしている

広間から出るとリヨンさんの奥さんは井戸から戻っていた

奥さんから別室に案内されると、藁の布団と着替えが用意されていた

着替えは麻の村人の服だ

ジャージ姿で布団に寝転ぶ

しっかし、今日は疲れたとストレッチをする

仰向けになり、ぼーっと天井を見る

俺は…死んだんだよな

そうか、死んだのか

死んだのか

いつの間にか寝ていた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る