第3話 それ以上見ると拝観料とるぞ!
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『俺の従妹がこんなに可愛いわけがない・3』
家に帰ると、もう由香里が来ていた。
正確には、マネージャーやら放送局のスッタッフなんかを引き連れて俺のことを待ち受けていた
「ウワー、薫ねえちゃん、いっそうマニッシュ!」
由香里が、家の前で叫ぶと、レポーターがスタッフを引き連れ、由香里といっしょになって、俺のことを撮り始めた。
「従姉の薫さんですね。いやあ、お話以上ですね。あ、手にしてらっしゃるのは原作の『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』じゃありませんか! そうなんだ、今度の由香里さんの映画の初出演に合わせて、いっそうヤンチャナ女子高生って感じで迎えてくださったんですね!」
「薫ねえちゃん、ありがとうね。あたしが、こうして、この世界でやっていけるようになったのも、ガキンチョのころからの薫ねえちゃんのスパルタ教育のおかげ」
「ほんと、大したもんですね。録画の時も言ってたんですけど、由香里ちゃんは、まっすぐ人の顔も見て話もできない子だったとか!?」
「根は、いいもの持ってた子ですからね。自信さえ持てば、俺、いやボク、いやアタシが世話焼かなくっても、これくらいに……」
そこで、由香里と目が合ってしまった。
テレビで観たとはいえ、俺の頭の中の由香里は下ぶくれギョロ目の泣き虫に過ぎなかった。それが目の前で見ると、ビビッとくるような可愛いアイドルに成長している。なんだか胸がときめいてくる。俺って気づかないうちに女捨ててしまったのかなあ、と思ったぐらい。
一つ疑問があった。
なんで映画の撮影にH市みたいな地方都市に来るんだ。原作読んでも舞台は大阪と東京の南千住だ。こんなチンケな街のどこを写すんだろうと思ったら、訳が分かった。
話の中で、二回劇場のシーンが出てくる。大きな街のホールは、この時期スケジュールが一杯で、とてもロケなんかには使えない。
そこへいくと、このH市は、地元から有力国会議員が出ていることもあって、立派すぎる市民会館がある。それも大中小と三つも揃っている。で、今回、大と中のホールを使って、ロケとあいなったわけである。
「ねえ、薫ねえちゃん。今度の由香里は、可愛いんじゃなくて、いじめっ子なのね。だから、今の薫ねえちゃんみたいなツヨソーな、で、ちょっち斜に構えたような女の子やるわけよ。あとで、コツ教えてくれる」
「え……ああ、いいよ」
十年ぶりぐらいで、二人で風呂に入って話がついた。祖父ちゃんの趣味で大きめに作った風呂だけど、さすがに二人はきつい……と、感じたけど、昔は平気で入っていた。それだけ、由香里との距離が遠くなってしまったということなのかと寂しく思い、そしてショックだった。
由香里の裸はイケてた。プロポーションはもちろん肌のきめの細かさ、つややかさ……そういうものはアイドルなんだから当然磨きがかかって当たり前なんだろうけど、そういうもんじゃない……なんて言うんだろ、精神の確かさから来る美しさがあった。俺も元は……ハハ、言い訳になっちゃう。大事なのは今だ。不規則で荒れた毎日おくってるもんだから、肌の荒れなんかが由香里と一緒だと際だってしまう。そして心の荒みさえ体に表れているようで落ち込んでしまう。
「薫ねえちゃん、なんか落ち込んでる?」
「バーロー、由香里は、相変わらずネンネだなって、思ったんだ。由香里、まだオトコ知らないだろ?」
なんて質問するんだと思いながら、つい意地悪なことを言ってしまう。我ながら根性が傾いている。
「だって、AKRは恋愛禁止だもん。あ、薫ねえちゃん経験済み!?」
「え、あ、それは……」
うろたえる俺を、由香里はシゲシゲと見つめる。それも全然邪気のない無垢な目で……。裸の自分をこんなにハズイと思ったことはない。
「いや、薫ねえちゃんがミサオをささげるんだ。とってもドラマチックでビビットな恋だったんだろうね……」
「バカ、それ以上見ると拝観料とるぞ!」
風呂から上がると、由香里は、いろんな姿勢を試していた。
「おい、行儀悪いってか、汚ねーよその姿」
「そっか、これなんだ!」
「え、なにが?」
「だよね、伯母ちゃん?」
「うん、薫そっくり」
そう言われてゾッとしたが、ここで湿気っちゃ俺の値打ちが下がる。それから寝るまでワルの姿を伝授した。
で、やや複雑な気持ちで二人で寝た。懐かしい由香里の匂いと一緒に昔の自分の思い出が蘇ってきた……。
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