ホテルで清掃のバイトをしていたら裸のJKがベットに誘ってきた件について
春槻航真
朝10時半ホテルにて
今日の清掃場所は修学旅行生が使っているから、今頃お寺巡りか鴨川の辺りを散策しているのだろう。こういう学校行事では体調を崩して部屋にいる人が1人か2人居るものだが、幸いなことに俺の担当部屋には該当する人間は居ないらしい。
一応気をつけているということなのだろうか、俺が回るのは前日まで男が使っていた部屋ばかりだ。おっさんなら床に吸い殻落ちたままにしている馬鹿もいるし、高校生は床にポテチが散乱していたり…とにかく、汚い。まあ女性に言わせてみれば女性の部屋だってとんとんかそれ以上に汚いらしいのだが、そんなことは知るよしもなかった。
最後の部屋に差し掛かった。ドアを開けると、裸の女の子がベットに寝そべっていた。傍らに下着を脱ぎ捨て、右手に男の子のパンツを握りしめていた。
俺は混乱した。いや、この状況混乱しない人などいないに違いない。
少女は到底高校生のものとは思えぬ乳房を揺らしながら、こう問いかけて来た。
「おじさん?私、身体が火照って仕方ないの…どうか、あなたの…」
「あ、すんませんベット綺麗にしたいので降りてもらえます?」
「………へ!?!?」
そして少女の隣のベットをセットし始めた。
「このベットセットし終わるまでに服着てでてってくださいねー」
「いや、ちょっと待ってちょっと待って!!」
シーツの上にお菓子のカスが溢れていたので、俺はため息をつきつつシーツを交換していた。
「ちょっと待ってって!!」
「何を待つんだ!?俺はさっさとここの掃除を終わらせたいんだよ。もうここラストだし」
「いやそうじゃなくてさ!?この状況!!このシチュエーション!!何も感じないの??」
「いやあ、結構な汚部屋だから掃除大変そうだなあとしか」
「いやそうじゃなくてさ!!」
俺は手を止めないまま対応していた。
「部屋のベットに横たわる裸の少女。こんな据え膳、食わなきゃおかしいでしょ??今ならこっそりやったって、誰にもバレないわよ…?」
「………」
「もしかして、あんたホ…」
「それは違う」
しっかりと否定して、ベットの調整を終えた。
「大体あんた、どうせ修学旅行生だろ?JKだろ?」
「そうよ!ほら、どう?生のJKがここに居るのよ!?男の人ってみんなJK好きでしょ??だから…」
「は??お前何言ってんの??JKに手を出したら犯罪じゃん」
「そんな冷静なツッコミ要らないのよ!!なにあんた!?野生の本能無くしてんじゃないの!?」
そこからJKは全力でまくしたててきた。敵は俺ではなく、世間の風潮だ。
「大体誰なのよJKに手を出したら犯罪とか言い始めたやつ!!私らは16歳から結婚できるのよ!!結婚できるってことは子作りしてもいい、つまり性行為は認められているはずでしょ!?なんでなのよ!!なんで誰も手を出してくれないのよ!!某エッチ系出会いサイトでは18歳以上であることを証明して下さいとか言われて詰んだし、風俗店とかリフレもガチのJKですって言ったらもうそういうの厳しいのでって言われて詰んだし、あんた知ってる!?今ね、あーゆーJKの風俗店ってJKのコスプレした人らしかいないんだよ!!知ってる!?」
「世界一どうでもいい情報だ」
掃除機で床のゴミを吸い取る。
「年齢確認いらない出会い系サイトに登録しておじさんに会ったら、看護学校の20歳って設定なのに白血病のこと赤血病って言って嘘がバレるしさ」
「どうやったらそんな会話になんだよ」
「相手がたまたま医者だったの」
なるほどそれは不幸だな。
「というか、そんなにしたいんなら同級生適当に誑かしたら良いんじゃね?あれだろ?同級生とやるのは合法らしいから」
「私もそう考えて、付き合ってみたよ同時に7人」
「いやそんないらねえだろ」
「毎日やりたいと思ったから」
「バカだ、こいつ真性のバカだ」
「でも、その誰1人として私に手を出してくれないの。『いや、俺は君を大事にしたいから』とか『外でやるのって、公然わいせつ罪で捕まるよね?』とか、『別に無理しなくていいよ、君は隣で笑っているだけでいい』とか『忙しい』とか言われて!!」
ゴミ箱に入れられたゴミを回収した。
「選んだ男が悪かったんじゃね?」
「みんな体育会系であそこ大きそうだと思ったのに、脱いでくれないから大きいかどうかすらわかんない」
「つくづく最低だなこいつ。で、ここでなにしてたんだ」
「そりゃ勿論、出待ちよ!あんたみたいな清掃員なら、見境なくやってくれるだろうと思ったからよ!!そのためにわざわざ体温計を偽装して、彼氏に頼んで部屋開けといてって懇願して、ここで待ってたんだから!」
「なるほどなー事情わかったから早くそこどいてくれ」
もう残り掃除する場所は少女の寝ているベットだけだった。
「いやよ、手を出してくれるまでどかない!」
「ばかなの?」
「即答かつ簡潔に断ってくるのやめて!!やめて!!」
俺はふううと息を吐き、そしてスマホを取り出した。退いてくれないなら力づくで…
「いいの??もしも連絡した瞬間に私はこういうわよ!?『無理やりこの部屋に押し込まれて裸にさせられました』って。それで裸を見たら、満足したのか手は出してきませんでしたって」
一瞬の判断で、俺はスマホを切った。
「ほら、あんただってわかってるでしょ?この日本という国ではこういう性犯罪に関して女の発言がめちゃくちゃ強いって。男が何言おうとも言い訳。女が言ったことは正義。そりゃそうよね。往々にして性欲モンスターは男の方なんだから」
「悪いけど唐突な性差別はNG。そして過去涙を流してきた性犯罪被害者の女性達を間接的に貶すのもNGだぞ」
「いやいや、あんたもこれから叩かれる側に回るのよ。JKの身ぐるみを剥いだ最低のホテルマンとしてね??わかった?あなたは私を、抱かないといけないのよ」
目の前の少女はまるで完全犯罪を成し遂げたような顔をして俺に迫ってきた。どうしたんだろう。この少女は一体どこで道を踏み外したのだろう。そこら辺にいる少し恵体のJKが、その身を安売りしていて頭が痛くなった。しかしこの状況は面倒だ。手を出すのは論外としても、助けを求めることもしにくいとは思わなかった。仕方ない。これだけはしたくなかったのだが、仕方ない。
「わかった。そんなに言うなら抱いてやるよ」
「やったあ!じゃあ」
「でもちょっと待ってくれ。俺は少し特殊性癖でな」
「うん!?」
「服を脱がすところからやりたいんだ。服を着てくれないか?」
少女はその言葉を信じて、しっかり制服を着た。
「着たよ!」
「後もう一つ、俺はな、外でやるのが好きなんだ。この近くに絶妙に人目のつかないポイントがある。そこに行かないか?どうせ今日は合流しないんだろ?」
「えっ……最高、それ」
「んじゃ、行こうか」
そして2人で部屋を出た。その瞬間…
「あ、忘れもの」
と言ってつかの間、もう一度部屋に戻って鍵をかけた。そしてベットの掃除にかかった。
「騙した!!騙したな!!」
どんどんとドアを叩く少女。流石にこの状況なら、誰だって俺が悪いとはならない。完勝である。
「ちょっと開けて!私も忘れ物したから開けて!!」
「何忘れたんだ?取りに行くから…」
「パンツ!パンツ忘れた」
「嘘つけしっかり履いてただろ」
「じゃなくて、男のパンツ、1人でするのに使うの!!」
「いや何に使ってんだよ!!」
そして俺は掃除機とシーツを持って部屋を出た。しっかり少女をブロックしつつ、ガチャリと鍵を閉めた。
「ほら、自分の部屋に戻れ戻れ」
そう言って頬を膨らます少女を追い払おうとしたが動かなかった。相当に不機嫌なようだ。俺は頭を掻きつつ、人がいないことを確認しつつ少しだけ説教した。
「あのな、周りがそうやって禁止をするのは、それだけ心配しているからなんだぞ。それだけ今の日本は、JKに対して大事に大事に育てていこうと思ってるんだ。同級生にしてもそうだ。君を大事に思っているからこそ、そうやって手を出すのも憚っているんだぞ。そういう人の気持ちも考慮して、もう少し自分の身体を大事にしなさい。この人だ!って思う人が出来るまでは、しっかりそれを守っていくんだよ。もしもこの人だ!って思う人とうまく行かなかったとしても、そう思って自分を大事にしてきた時間は財産になる。それがないと、大人になって、誰にも大事にしてもらえなくなった時、自分を壊してしまうかもしれないから」
……………
「それじゃあな。JK。それと、修学旅行をこんなバカなことに使わず、もっと良い思い出を作るんだぞ」
そして仕事に戻っていった。後ろから声が聞こえてこなかったから、またおっさんの説教とでも思われたのだろう。一応19なのだが、老け顔の自覚はあるから慣れている。まあ、もう2度と会うこともないのだし、思っていること言うくらい許されてもいいだろう。
なんて思っていた、自分がバカだった。
3日後の話である。のんびり阪神戦を見ていた俺のアパートに、来訪者がきた。チャイムに反応してドアを開けると、そこには件の少女が立っていた。無論、即閉め即ガチャである。
「ちょっと!!!なんでですか!!なんでまた閉めてるんですか!!」
「いやこっちこそなんでだよ!!なんでここ知ってんだよ!!」
「そりゃもう聞いてきましたもん!!あのホテルで、どうしても渡したいものがあるから名前と住所教えて欲しいって。コンプライアンスだのプライバシーだの言われましたけど、3日粘って聴き出しましたもん!!古都経済大2年の吉田憲高さんですよね??」
「なんで大学名まで知ってんだよ!!」
「駐輪場、古都経済大のシールしか貼られて無かったですもん!あ、私は私立潤城学園2年の五条桃李です!」
「いや知らねえから。この辺の高校じゃねえだろ?」
「大丈夫です!修学旅行を機に家出したので、私の初めてをもらってください!」
「ふざけんなよ!手を出さなくても家出少女泊めるだけて誘拐が認定されるんだよお前らは!!絶対に無理だからな!!100%泊めねえからな!!」
「なんで??なんでそんな法律があるの??」
「そりゃお前ら守るためだよ!というか俺の忠告一つも聞いてねえじゃねえか!」
「良いから泊めてください!!もう帰るとこないんです!!」
「自分のお家に帰れ!!今すぐな!!」
こうして、俺の生活に変態JKが纏わりつき始めたのは、また別のお話である。
ホテルで清掃のバイトをしていたら裸のJKがベットに誘ってきた件について 春槻航真 @haru_tuki
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