第3章 8-2 卵の幻像
眞が代々木公園まで送ってくれたが、そこからは一人で帰れるからと、公園の前で山桜桃子は眞と別れた。
森へ入ると、隣へゾンが幽体で現れる。いつもの、でっぷりと太った竜人形態のドラゴンゾンビだ。
「よお」
「なに」
歩きながら、山桜桃子が素っ気なく答える。
「たいしたもんだぜ、おめえはよ」
「なにが」
「フッ……」
「何がおかしいの」
「はっきり云ってやるぜ。このオレに向かってあんな啖呵きって脅しかけてきた命知らずの超絶クソバカヤロウは、後にも先にもおめえだけだ」
「うっさいな……」
山桜桃子が妙に恥ずかしくなって、顔をあからめる。
オレの云ってる意味を、まったく分かってねえだろうなあと思いつつ、ゾンは続けた。
「アレはよお、あんまり使うんじゃねえぞ」
「だから、なにが」
「無理すんなって意味だ」
「わかんないよ。どうやってやったかなんて」
(ほう……)
ゾンが思考する。山桜桃子が「接点」を自覚してるわけでない。おそらく、何か……偶然ではないにせよ……何かが無意識のきっかけとなって、自動的に発動したのだろう。ゾンから無理に「接点」をつなげば、やはり山桜桃子へ相当の負担がかかるのが予想される。かと云って、山桜桃子に自覚がないのでは、もしかしたらもう二度とあの現象は発動しないかもしれない。
(いや……それはねえな……『接点』てのは、そういうもんじゃねえ……。そのうち、ユスラのやろう、自在にあの力を遣いこなすようになるだろうぜ……)
そうなったらしめたものだ。
(最初はコイツ、とっととおっ
ゾンは自分の野望の輪郭を、はっきりと形にしはじめた。
(十年後……いや、五年後がたのしみだぜ……)
クックク、と思わずゾンが含み笑いを漏らしたので、
「なに、気持ち悪い」
「なんでもねえ」
すぐさま、消えた。
「変なやつ……」
山桜桃子は、あの
関西国際空港に、二人のロシア人が降り立った。それぞれ任務でアメリカとアフリカにいたが、いちどロシアへ帰国して合流し、それから来日した。背の高い男女で、ラフな格好だが高名なモデルかスポーツ選手に見えた。男は三十歳前後、女は二十代半ばだろうか。だが日本人より年上に見えるので、それから数年若いだろう。女は茶金髪に青い瞳で、男は焦げ茶色の髪をし、瞳は薄い灰色だった。
「スヴェーチカはどこにいるの?」
女がロビーを見渡してロシア語を発した。
「誰も迎えに来ないの」
「スヴェーチカは東京だよ。この便しかなかったんだ。新幹線で、東京に行く」
「本気で云ってるの?」
女が不機嫌な声を発したので、男が肩をすくめる。
「ここまで来たんだから、あと少しの移動くらい、我慢しろよ」
「そうだけど……」
「二人とも、こっちだ」
ロシア語がして、見ると、私服姿の壮年のロシア人男性がいる。二人が男性へ向かった。
「すまん、ちょっと渋滞してて……」
「車があるんですか?」
「ああ。車で東京へ向かう」
恰幅の良い男性は、ロシア内務省職員だ。そうすると、二人は狩り蜂ということになる。
大きなスーツケースを大型の台車へ乗せて男が押しながら、二人は内務省の職員の後ろへついて駐車場へ向かった。ロシア人運転手付のマイクロバスが用意してあり、スーツケースも乗せることができた。もちろん運転手も、内務省の人間である。バスの中には運転手のほかにもう二人、職員がいたので、内務省は四人で迎えに来ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます