第3章 4-2 本部道場
とはいえ、武道場や茶室、華道の稽古場も備え、そこそこの施設規模ではある。日本狩り蜂協会そのものは既に新宿でビルを構え、こちらは宗家としての機能しかない。日本の守護闘霊界の総本山にして総本家であるが、狩り蜂の数が必然、限られているため、そう大きな組織ではない。ただし、影響力は中世より朝廷や幕府へ厳然と仕え、近代化後は帝国政府直轄となり、民間となった今でも各方面へ果てしないものを持っている。
公園を横切り、一般人は立ち入り禁止の森の中へ忽然とその門は現れる。鳥居のように、門だけがそこにある。常に警備員とそのゴステトラが幽体や実体で周囲を監視していた。警備員ですら、狩り蜂だ。警備隊長は、協会の職員で免許保持者だった。
似衣奈は見張りに気づいているのかいないのか、この二十一世紀の現代においても鬱蒼とした都会の中の森林に佇む古めかしい特殊な力の根源という独特の雰囲気の中で興奮していた。
門をくぐり、道場の裏へ回ると母屋がある。
道場では、かつては修験道のように霊力を高める
またゴステトラ同士の模擬戦も稽古として行われた時期もあったが、これもあまり意味がないことが判明し、かつ危険なため今は行われていない。というのも、ゴステトラは最初から力、すなわち「強さ」がほとんど決まっていて、修練しても特に強くならないのだった。あとは「どう遣うか」という狩り蜂の問題だったので、それは座学として各狩り蜂が基本的なことを学び、自分のゴステトラに合わせてどう実践するかは各個人にまかされていた。ゴステトラは道具であり、道具同士をぶつけ合っても道具の性能は上がらない。
そのうえ、ゴステトラが傷つくと狩り蜂も反動でダメージを受けるので、無暗に戦わせるのは意味がない上に非常にリスクが大きいのだった。
そのほか、八尺天心流茶道、華道、兵法(弓、杖、剣、小太刀、居合、長刀、手裏剣、鎖鎌)が常に稽古されていた。門人は全て協会員で、狩り蜂が基本だが普通の職員やその家族も学ぶことができる。それらの宗家も、全て菫子であった。
山桜桃子は、その三道宗家を継ぐことも求められていたが、さすがにもうそれはいいだろうという空気にもなっている。現代人の生活で、それら全てを極めるのはもう困難であった。せめて名前だけの名誉顧問になるとか、手はあった。
「でも、そろそろお稽古、はじめるんでしょお?」
「うぇ……ん……ま、その……うん……」
堅苦しいことが大嫌いな山桜桃子は、心の底から稽古が嫌だった。特に華道と茶道だ。着物も嫌なら正座も嫌だった。武道関連は、実は面白そうと思っている。
「そのうちね」
などとごまかして、山桜桃子はまっすぐ部屋へ案内した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます