第2章 3-5 家持
「私にはわかりません……」
「ごめんごめん、
「気にしますよ。お嬢の沽券や将来に関わることです。今日だって、万が一あのおじさんが死んでたら……」
「そのための貴方よ」
「私が倒してしまったら、お嬢のカウントにはなりません」
そう云って、メガネの殺気が膨れ上がる。落ち着けよ。怨霊君の思うつぼだぜ。……ほら、怨霊君め、楽しそうにせせら
「春風」
いきなり、禁煙のねえちゃんがメガネの胸倉つかんで顔を引き寄せた。
「余計なことはするんじゃない。
「は……はい……」
ほれ、怒られた。その迫力に、メガネが正気へ戻って意気消沈する。いや……メガネの顔が赤いぜ。へっへ、若いねえ。
なんにせよ、これはちょっと要注意だ。具体的に、ユスラつぶしが内々に始まった……てんならな。オレが勝手に動くわけにもいかねえだろうし、難しいぜ。
オレは、やるなら徹底的にやってやるけどよ。こっち側で暴れる分にゃあ、ユスラに負担はねえだろうし。道場内で、ウスイサン以外のゴステトラなんざオレの敵じゃあねえ。そんなのは、道場でいつもオレを見てる連中にゃ分かってるこったろうが、まさかゴステトラ同士を直接ぶつけるわけもねえだろうし、組織の力でこられると、子供のユスラにゃ厳しい。
その日は暗くなってきたころ、ようやく解散となった。メガネがユスラを送って、ユスラは飯もくわず湯もあびねえで、ぶっ倒れるように寝ちまった。
そして、いろいろ残務処理を終えたメガネが帰ろうとしたら、道場のやつに呼ばれた。ヤカモチが呼んだんだ。オレも着いていく。ヤカモチってやつを、再確認しておこう。
「春風です」
事務室の前でドアをノックし、メガネが入る。何人か事務職員や狩り蜂がいて、奥に座っている中肉中背の、痩せたメガネのハゲのおっさんがヤカモチだ。あーはいはい、こいつだ、こいつ。いるんだよねえ、いかにもこーゆー役人然としたヤツが、どこの世界にも。事務能力はあるけど、人を率いるのは向いてねえ。ナンバーツーかスリーが適材適所なのに、勘違いしてトップを目指そうとすると悲劇が訪れるタイプだ。もしくは、裏から牛耳ろうとかな。向いてねーんだっつうの。
ちなみに、ヤカモチのゴステトラは、長銃を持った若い兵隊だ。黒い軍服で、百数十年前くれえの、この国の陸軍の兵士らしい。射撃が得意なんだな。こういう手合いは銃ごと幽体で、弾もちゃんと土蜘蛛に効果がある。刀とか、武器を持ったやつも同じだ。ヤカモチの先祖の一人じゃねえかな。
なんにせよ、オレの敵じゃあねえよ。こんな、爪楊枝みてえな銃じゃな。現に、オレへ敬礼して直立不動だ。はい、ごくろーさん。あんたも大変だねえ、チンケなおっさんに
メガネが、奥の机の前に立つ。机札にゃ、事務局長って書いてある。
「
「春風、退治の最中に、一般人が襲われたそうだな」
「はい。避難指示の不徹底かと」
ハッ、いきなりかますじゃねえか、メガネよお。ほれ、ハゲの顔つきが変わったぜ。
「指示は徹底してあったよ。だが、たまたま通りがかりが紛れこむというのは、よくあるこ
とだよ。退治の際の不手際は、付添人及び退治者本人の責任になるという協会規約を、もういちどよく読んでおくように」
「申し訳ありません」
「それに、きみのゴステトラが補佐したっていうじゃないか」
「一般人の救出のみです。退治には関与していません」
「救出も退治の内だよ。規約により、今回の退治はきみと山桜桃子君の折半ということで、土蜘蛛の退治勘定には入らな……」
「待ってください!」
「待てないよ。規約だ。以上。下がってけっこう」
「家持先生!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます