第2章 3-3 自己封印
「や、やった!」
やってねーよ。ユスラにゃまだわかんねえか。
メガネはわかってるようだな。
オレはすかさず追い詰める。逃がしゃしねえ。ナメた態度とるやつぁ、死んだほうがましだっつーほど後悔させてやるぜ。
だいたい顔だけの分際で、どうやってジャンプしやがったんだってえの……どっこらしょっと。
顔饅頭が空けた壁の穴から廃屋へ入ると、一気に暗くなった。窓が板で塞がれている。オレにゃあ関係ねえ。そもそも、オレは自己魔力で「観て」いるからな。
土蜘蛛の連中だって、オレの世界でいう魔力がある。その痕跡を追うだけで、どれだけ隠れようと丸わかりって寸法よ。ほら、そこだ……っつうの、コノヤロウ!
オレが体当たり気味に突進するや、顔野郎がまた大きく跳ね上がった。一階の天井を突き破って二階まで跳びあがり、そのままごろごろと転がって移動したので、衝撃で二階の床が軋んで下へ大量の埃が降ってくる。オレがゆっくりと、かつ確実にその動きを追う。すると、ぐるっと回って、顔野郎が二階の床を突き破ってオレの真上へ落ちてきた。
首の後ろへすげえ重さがかかって、オレが前のめりによろめく。踏ん張ってなんとかつぶされねえように耐えたが、床を踏み抜いてバランスを崩しちまった。こっちの家は、床が木の板なんだよな。そのままバリバリと床下まで落ちるようにして、オレは転びかけたような姿勢で顔野郎を背中へ乗っけたまま身体の半分ほどが瓦礫へ埋まっちまった。
その隙に、顔野郎はオレを踏み台みてえにして、ボガッシャア! 壁をぶっ壊して玄関のほうへ跳び転がると、そのままユスラたちのいる裏側と反対の表路地のほうへ出た。
「ゾン、何の音!? なにやってんの!?」
うっせーな。わかってるよ。逃がしゃしねーって。こっちの連中なんざ、どいつもこいつも魔力の遣い方ってえもんをまるでわかっちゃいねえ。いくらこっちじゃ、ただでさえ少ねえ魔力を操作する法則がねえっつっても、直に動かしゃあいいんだって!
オレは床板を踏み抜いて身体半分埋まったまま、顔野郎がクソみてえにタレ流してった魔力の痕跡をがっしと掴むと、自分の魔力と連結させ、思い切り引っ張った。
手ごたえありぃ!
丸い体形が仇になったな。オレが縄を手繰るように魔力を引っ張ると、顔野郎がごろごろと引き寄せられる。他愛もねえ、自分の魔力を遣いこなす方法も知らねえんだ、こいつら。というか、自覚すらしてねえ。こいつ、自分が何でオレに引き寄せられてるのか、まったく理解できてねえと思うよ。
ぶち破って出てった表玄関から、また顔野郎が転がりながら入ってくる。……って、
「……!」
やろう……誰だか知らねえおっさんを咥えてやがる。退治の時は、一般人を避難させてるはずだったがな……?
「たっ、助け……助けて……!」
咬み殺してねえところ見ると、エサじゃねえな。人質のつもりか? ハハッ! しゃらくせえ。オレがそんなもん知るかっつーの。運が悪かったな、おっさん。アバヨ。
「ゾン! どうしたの!? 誰かほかにいるの!?」
「いねーよ!」
「あっ、あっ……だれかーッ!! だれかあああああ!!」
「いるじゃない!」
チッ。
「ゾン、普通の人は助けなさいよ!」
めんどくせー。無理だってえの。オレにそんな芸当できると思ってんのか?
「命令だって!!」
なんだよ、こんなときだけ……。メガネの差し金か?
ま……しゃあねえなあ。そんなに云うならやってやるけど……てめえ、調子が狂っても悪く思うなよ。若えから、回復も早いだろ。
なるべくてっとり早くやってやるぜ!
しかたもねえから、少しだけ竜化する。魔力を開放して、自己封印式を解く。こっちじゃ、これだけで世界の法則に反するので歪みが生じる。その歪みが、オレとつながっているユスラへ雪崩こむ。ユスラはまだ気づいてねえ。ユスラじゃなかったら、そうとう寿命を縮めてるはずだ。
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