第2章 3-1 不安の廃屋
そのうちユスラの個人補習が終わって、ちんたらとメガネに送ってもらって家に帰った。よっぽど絞られたようだな……ユスラのやつ、ゾンビみてえな顔してやがるぜ、ハハハ、いい気味だ。
「はいどうも、ただいま。ああ、よしよし、どーもどーも。はいはい、どうも……お疲れさん」
屋敷中のゴステトラがオレに挨拶する。人間のほうでユスラをどう思っていようと、この道場にいるゴステトラはほとんど全員オレに従うぜ。唯一オレより位が上なのが、ばあさんのウスイサンだ。だが、ばあさんがもうとっくに引退してるんで、ウスイサンも滅多に現れねえ……。一回だけ、挨拶程度に軽く話したことあるんだ。あいつには、もっといろいろ聴いてみてえんだがなあ。
ユスラは疲れたのか、めし食って雨みてえな湯を浴びて、すぐ寝ちまった……。だらしねーなあ、腹だしてよう。うなされてんのかよ。ハハハ、ばあさんの夢でも見てんのか?
……オレがのっかってるからか。
オレはユスラへ毛布をかけて、その夜も道場の上空から、空中へ坐った格好をし、夜のこの巨大な光る街なみを眺めてすごした。
星空も、変わんねえな。
月がやたらとでっけえぜ。
3
試験も終わってひと段落したのか、ユスラも落ち着いてきたようだ。火事もここんところ収まっている。件の連続火災が土蜘蛛の仕業だとは思ってねえけどな、オレは。土蜘蛛ってのは、そんなまどろっこしいことはやんねーからよ。ヘッヘ、ベテランみてえな物云いだろ? 分かるよ、ちょっとやりあっただけで。土蜘蛛みてえな連中は、刹那的でその場しのぎよ。そんな、チンタラ火ィつけて回るようなこたあしねえ。そんなことするのは、暇な人間だけだ。
もし、土蜘蛛の仕業だってんなら、そいつは土蜘蛛の力を持った人間だよ。そんなものを、なんていうのかはしらねーがな。
さて、おちついたら仕事ですよ……っと。
休みの日に、メガネが迎えに来た。とっぽいのはいつまで入院するんだ? 夏まで? こっちの人間は治りが遅いねえ。デンキ魔法じゃ、ケガは治せねえんだな。魔法なんて便利なようで不便だから、そんなもんだ。
今日は近くみてえだ。バスでちょっと行ったら、すぐ下りた。
しかしこの国はやっぱりすげえな。都市国家なんだな。どこまで行っても街だ。都市国家にしたってでけえ。とんでもねえ大きさだ。
狭い道を歩いて……住宅街か? 二階建ての家々が並んでいる。そこの路地を入って……ここか。廃屋だ。雰囲気悪いな。わかるぜ。今回の土蜘蛛は、ちょっとユスラにゃ早くねえか?
「気持ち悪いところ。いかにも、土蜘蛛が出そう」
「私は、今回の退治は反対でした」
「どうせ、バ……ひいばあちゃんがやれって云ったんでしょ?」
「いいえ、大先生は所用で一週間ほどおられません。
「家持さんが?」
ヤカモチ? だれだ? オレはしばし考え、思い出した。……あのばあさんの腰巾着か? いいトシしたおっさんなんだが、いつもウラでユスラのことを愚痴っている。ばあさんのいねえうちに嫌がらせってか? やれやれ、大人げねーよな。小物だよ。どこの組織にもいるんだ、あーゆーの。いざとなったら、あいつのゴステトラをひねりつぶしてやるぜ。へっへっへ、そうすりゃあいつはおっ
メガネとユスラが道路から他の建物を取り壊した敷地へ入り、湿った空き地となっているその部分を横切って慎重に廃屋へ近づく。廃屋の裏側から回ろうってんだな。
メガネが、今回はユスラから離れねえ。そんだけ、危険なんだ。どれ、オレもそろそろ出ようかな。
「おい、おめえの出番はねえからな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます