脳髄佳災

韮崎旭

脳髄佳災

解答できない例題の列を見る。

解明された海の広さを忘れる。

それらは同義だそうだ、辞書によると。

ラプラタ水系、リオグランデ、紀行文、乾季の熱病のような浮かれ騒ぎ。

雨季にはすべてが暗く灰をおびるという。

開明された脳梁の、その先の黒が渦巻いて。

得難い回路を片っ端から叩き壊す。今に見ていろ。

アッパーでも改善できない鬱屈が、抑えつける心肺と時刻。

恐怖に急き立てられて歩いた輪廻、名残がまだ行方を知る。


凍り付いたような文字列を見るにつけても、

どうやらそうとう正気を失っているようで。

正体をなくしているようで。

正体なぞどこにもありはしませんよ。

そうですか。それにつけても、凍り付いたような文字列が、

義肢の明るい凶日に似て、照らすあたりを、茜で染める。

紫の野を行く君のその袖が、隠れては跳ね僕をまよわせ。

知らぬ間に、知ってしまった名を呼べば、野守の顔も忘れ去ったよ。

何時からであろうか、凍り付いた言葉は、桜貝の小説とされた。

そんなことは微塵もないのに、だいぶ酔ってますよね?

正気だなんて言わせませんよ。


解釈できない解放を見る。

朝日がもたらす取り換えの利かない恐怖と暗号を、

問い合わせる先もなく胸の内ではぐくみ、際限なくどう猛さを身に着けてゆく恐怖を、

始末する術もなく。

厄介なこの同居人に脳髄を齧りながら削られる。

抗う術がないのは、

私とは恐怖そのものだからだ。


視界から拾ってきた、干上がった塩湖に、

見慣れた様で映るのは、どちらの怪異の正体か、どちらの異形の招聘か、

見知った笛の音をならせば、聴きとるものはただ薄暗い、

神話に上書きされた土俗か果ては神聖、おとしめられた神の行く末。

ささげる茜は広く裂き、行方も知れず深夜をさまよう。


解答がなかったのなら、そもそも存在しなかった。

ばからしい。それが終わりなら、貴様の舌は豚の餌にもなるまいよ。


欠陥品はもう間もなく破棄され、安全な製品と無償で交換されますので該当する型番の製品をお持ちの方はフリーダイヤル……

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脳髄佳災 韮崎旭 @nakaimaizumi

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