薄荷あめ

第1話夜を悼む

 私は、風の穏やかな一本道を歩いている。

 

 ただひたすらに、自らの足音が一定の調子で空気中にひびきわたる。


 突然にひゅうひゅうという音が聞こえ、驚き、目を凝らしてみたら、夜が凄まじい勢いで迫ってきているのが見える。

 なんだかわからないけど恐ろしいような気がして、夜から逃げるように走り出す。

 前も、後ろも、右も、左も、全く判別しないままにひたすらに走る。


 けれど、とうとう夜に追いつかれて、私はまたたく間に飲み込まれる。


 夜には面妖な匂いと雰囲気が充満しているから、私はついつい息を止め、目を閉じ、身をちぢこまらせるが、それからすぐに体が軽くなるような感じを覚え、意を決して目を開けてみると、いつの間にか自分が夜の最中をふわりゆるりと漂っているのに気付く。


 夜のとろりとした心地よさに身を任せ、私は夜をさまよい続ける。それはもう、とてもとても長いあいだ。


 しばらくそうしていると、突然にどころからかひゅるひゅるという音が聞こえ、驚き、遠くを見遣ると、朝が凄まじい勢いで迫ってきている。

 これでは夜の密度が下がってしまうと、そう思うと、ひどい不安と寂しさが押し寄せてくる。

 どうしたらよいか分からないままに必死に身をよじらせ、夜を体いっぱいに含んだり、吐いたりする。

 それでも夜はどんどんと薄くなっていき、それにつれて明るくさらさらとした朝が夜を侵食していく。

 結局、夜は四方八方に散り、朝の中に消え入っていく。

 夜の気配は一切無くなり、朝は空間をすっかり覆ってしまう。

 朝はあまりにも窮屈で、私は押し潰され、身動きが取れない。

 私は、どうしようもないほどの息苦しさに起き上がることを諦め、ふっと眠りに就く。

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薄荷あめ @mintpepper

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