ようこそ美少女ゲームの世界へ
@akaganegaku
第1話プロローグ
ピピッ ピピッ ピピッ ピ・・・
「ん・・・もうこんな時間かよ」
なんで朝ってのはこんなに気だるいんだろうか
「あぁ、会社行く準備しないとな」
いつもと変わらない日常、朝起きて会社へ行き、上司にいびられ就業時間を終えると
家に帰り寝る。
我ながらなんてつまらない人生なんだろうと思う。
唯一の楽しみと言えば、毎月の最終金曜日だけだ。
その日は、美少女ゲームメーカーが挙って新作を世に生み出すのである。うん。実に良い日だ。
いっそのこと毎月最終の金曜日は国民の祝日にして欲しいね。
そんなくだらないことを考えている俺
境 恭一 現在25歳の天涯孤独の身だ。
天涯孤独とは言っても、両親が高校を卒業するのと同時に離婚し、もともと子供に興味が無かった両親は俺を置いてどっかへ行ってしまったと言うだけだ。
その後、俺を大学まで面倒見てくれたのが祖父母だった。
そんな祖父母もやっぱり俺を置いて旅立ってしまったのだ。
故にかなり遅咲きの天涯孤独なのだ。
社会人になり、自分の食い扶持くらいは自分で稼げるようになったので、祖父母が残してくれた家は一人では広すぎるし、大切なものだけを持って家を売り、今のマンションへと越してきたのだ。
そんな幸せとはいえない人生の中で、唯一俺がのめり込んだのが美少女ゲームだった。
はじめてプレイしたときの衝撃は今でも忘れられない。
自分の生きてきた人生とは全く違った人生を歩く主人公。当然その周りにはたくさん友人が居て
日々を楽しく過ごしている。現実の世界とは違い、全てが俺には綺麗なものに見えたのだ。
プレイしていると、だんだんと主人公に感情移入してしまい、お涙頂戴の場面ではよく泣いたものだ。
そんな俺も今となっては社会の一員なので、昔みたいに一日中ゲームをしているわけにもいかなくなってしまったのだ。
「だるいけど会社行かなきゃな」
なんて情けない声を発し、玄関を開けた。
今日は日差しが強く、ドアを開けただけで俺の心が折れかけてしまった。
しかし、俺には心の支えがある!
なんといっても今日は今月の最終金曜日なのだ!
今日一日を乗り切れば、美少女ゲームが手に入るのだ!後は至福の土日があるのみ!
そう考えると、嫌いな仕事もがんばれるというわけだ。
「さて、今日は一日耐えしのぎますか」
そういって玄関を潜り抜け、会社へと向かった。
◆
『やっとおわったぜー!!くそったれがーーーー!!』
と心の中で叫びながら、会社を飛び出した。
向かうのは駅前にあるソフ○ップだ。
帰宅ラッシュで込み合っている電車をようやく降りると、俺は急ぎ足で目的地まで向かった。
さすがに、今日と言う日は人がごった返している。店内にはキャラクターグッツで武装した戦士
(おそらくは一度も敵地への侵入に成功したことは無いだろう・・・)やいかにも真面目そうな人などが多く居た。
そんな中、彼らに心の中で敬礼をした俺は、目的の売り場まで一直線に歩を進めた。
そしてすかさずレジへ向かい、前もって予約していた商品を受け取ったのだ。
今月は3作も予約をしていたため、財布の中から諭吉先生3人分のぬくもりが失われたが心は暖かくなったのでよしとする。
早速家に帰ってプレイしようと意気込み売り場を出ようとした。
そのとき、珍しくワゴンに中古ソフトが山済みにされている現場が目に入ってしまった。
たいていの美少女ゲームを攻略済みの俺にとって、中古の山と言うのはあまり興味を引かれるものではなかったのだが、なぜか今日は無性に興味を引かれたのだ。
ワゴンの中身を1つずつ確認していくとそこには、すでに皆の記憶から失われてしまったような懐かしいゲームなどがたくさんあった。
そんな中で、1つ気になるソフトを見つけた。
『ん?パッケージが真っ白だ・・・』
あまりにもあまりにもなデザインだったので、手にとり裏表紙を見てみると
『真っ白いページに刻む思い出、もう一度青春を・・・って何だこれ?』
真っ白い箱にその言葉だけが、書かれていたのだ。
あまりにもやる気のないパッケージと、見たことも聞いたこともないという興味から
俺はそのままそれをレジへと持っていき買ってしまった。
ちなみに500円だった・・・。
◆
家に着くと早速PCを起動させ、紙袋の中身を取り出した。
待ちに待った新作ゲームなので、ゆっくりと外装をはがし、丁寧に箱を開ける。
「いやーこの瞬間がたまらんよね」
なんてひとり言を呟きながらゲームを眺めていた。
すると今まで忘れていたが、真っ白い箱が視界に移った。
『まぁ、楽しみは後にとっておきたいし、まずはこの意味不明なゲームをやってみるか』
そう考え箱に手を伸ばした。
やっぱり見れば見るほど不思議なパッケージだった。
『こんなん誰が買うんだよ・・・あっ!俺か・・・』
なんて一人で馬鹿なことを考えながら中身を見てみると
『マニュアル欠品かよ・・・しかもディスクまで真っ白かよ・・・』
なんだかこのゲームを作ったメーカーさんに呆れてきたな。
とはいったもののこのゲーム、メーカーのブランドロゴが一切無く、どこで作り、誰がライターなのかもわからない状態だった。
とりあえず俺は、ディスクをDVDドライブに入れインストールすることにした。
すると ウィーーーーーーンっとPCがものすごい音を上げディスクを読み取りだした。
おい、おいこれ壊れるんじゃね?と思い慌ててドライブから出そうとしたが、ボタンをおしても全く出てこない。
『・・・・・・・糞が!!』
と悪態をついていると、ピコッっと小さいダイアログが出てきた。
【あの青春をもう一度.exeをインストールしますか?】
はい・いえ
とそれだけしか出てこないのだ。
まぁとりあえずは無事に読み込めたみたいだし、俺は迷わずはいをクリックした。
するとゆっくりとインストールが始まり、textがデスクトップに表示されたので、とりあえず開いてみた。
あの青春をもう一度をプレイする皆様へ
このたびは、あの青春をもう一度をご購入いただきありがとうございます。
本作品の仕様に疑問をもたれた方がほとんどだと思いますが
これは決して手抜きで作られたソフトではないことをまず此処に宣言いたします。
プレイしたいただければ、この意味を十分にご理解いただけるかと思いますので
まずは、インストールが終了しましたらアイコンをクリックしてください。
では、皆様に良いご縁があることを、また、良き結末が待っていることを
スタッフ一同願っております。
「なんか気味悪いゲームだな、かなり地雷ふんだかもな・・・」
そんなふちをこぼしながらも、インストールが終わったので、言われたとおりにアイコンをクリックした。
そこでおれの記憶は途絶えたのだった。
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