笑顔のゲンキ

ドラゴン討伐を引き受けた。


王様が言ってた物資の用意に3日ほどかかるようで、王都でのプチセレブ生活を少しだけ堪能出来る事になった。



それにしてもドラゴンてなんだよ。勝てるわけないだろと思わないでもないが、これまでの経験から言ってもシャイニングさんがボコボコにして終わりだろう。


僕はと言えば、せいぜい足手まといにならないように気をつけるばかりだ。


ドラゴンてどんな生き物なんだろう?これまで戦ってきたモンスターは、よくあるファンタジー世界の見た目のモンスターだったけど、やっぱりドラゴンもそんな感じなんだろうか。


僕の知るドラゴンには大きく分けて2種類あって、願いを叶えてくれそうな細長い系と、ドッシリとした大型系。


ファンタジー界では後者である事がほとんどのような気がする。細長い方と戦ってるのはあまりイメージがわかない。


やっぱり火を吹いたり空を飛んだりするのかなぁ。超大型生物が上空から火を吹いてくるとかどう考えても恐怖でしかない。


でも、もしこれを倒すことが出来れば、名誉あるドラゴンスレイヤーの称号をゲットする事になる。


もしそんな事になれば、まさに絵に描いたような異世界生活の始まりだ。街のそこかしこに僕のファンが溢れ、僕を慕う女性が家に連日押しかけてくるのだ。


「やれやれ・・・。しょうがないなぁ。」


とかかっこよく言う練習をしておく必要があるかもしれない。今日こそ有意義な1日にするぞと意気込んだところで、部屋に来客があった。



「まさよしさんいらっしゃいます?」


マキノさんだった。


「はいはいいますよ~!・・・ってあれ?今日はマキノさんだけですか?よしえさんは?」


「よしえさんは、朝からモンスターレース場に旅立っていきましたよ。神のお告げがあったとかなんとか言ってました。」


なんだあの女神様は。まぁでも、一応たぶん女神らしいので神のお告げが聞こえる事もないわけでもない・・・。のかなぁ。


「で、宿で引きこもっててもヒマなので、私と一緒に街をブラブラしませんか?」


マキノさんからお誘いを受けた。


「やれやれ・・・。しょうがないなぁ。」


さっそく使ってみたものの、声が小さ過ぎて聞こえていなかったようなので改めて普通に返事した。



「どこか行きたい所とかあります?好きな所とか。」


「ん~。特に無いです。というか、王都とか初めてきたので何があるのかも全然わからないので・・・。」


「じゃあ、適当にブラブラして周りますか!」


そんなわけで、マキノさんと適当王都ブラリ旅が始まった。しばらく一緒に歩いて思ったのだが、何を話していいかわからない。


前回の街の観光の時はよしえさんと3人だったからなんとか間が持ったが、今回は2人きりだ。女性との経験値の少なさが悲しい。


というより、よく考えたら日常生活以外のマキノさんの事を僕は全然知らない。



街並みを眺めながら並んで歩いていたら、ふいにマキノさんがこんな事を聞いてきた。


「まさよしさん達はどこから来たんですか?遠い所って行ってたような気がするんですが、どの辺なんですか?」


立ち止まり、ジッと僕の目を覗き込んできた。


「・・・え、いや、その・・・。遠い所としか・・・。」


どうしよう。どう答えるのが正解だろうか。


「別に困らせようとか、疑ってるとかで聞きたいわけじゃないんですよ。ただ・・・。なんというか・・・。まさよしさんとよしえさんだけしか知らない事がたくさんあるような気がして、ちょっと寂しいんですよ。」


そう言ってニッコリ笑うマキノさん。


まぁ、別に隠すような事でもないわけだし、信じてもらえるかどうかわからないけど正直に話してみようか。


「じゃあ、お話しますけど、引かないでくださいよ?後、ウソじゃなくて本当の事ですからね?」


立ち話も大変なので、適当なベンチに座って話す事にした。



「い、異世界・・・?」


元々僕は全然違う世界に住んでいた事。ある日謎のローブの女性の導きで、魔王を倒して欲しいと頼まれボタンを押してこの世界に来た事。


相棒として女神様が一緒だと言われ、その女神様がよしえさんだという事。ここまでの経緯を全てマキノさんに話した。


「なかなか・・・それは・・・そのぉ・・・。」


やっぱりなかなか信じられないだろうか。


「ウソじゃないですよ!信じろってのも無理だとは思うんですけどね・・・。」


僕自身だってあんまりよくわかってないし。


「で、でも、それなら、よしえさんが変身したりめちゃくちゃ強かったりするのもまぁ納得出来ました!あの女騎士姿凄い強いですよね!」


僕は最初から知ってたから特に違和感無かったけど、よく考えたら予備知識無しであの人の活躍を見れば謎だらけだよなと今さら気付いた。


「そういえば、まさよしさんはあの姿の時のよしえさんをシャイニングさんて呼んでますよね?あれはなんでなんですか?」


「それは・・・。なんか、あの姿の時はシャイニング・よしえって名前らしいです。自分で言ってました。」


「シャイニング・よしえ・・・。ですか・・・。」


「はい・・・。」


「・・・。」


「・・・。」


変な無言の間が出来た。色々思う事があるんだろうなぁ。




「じゃあ、あのちょっと個性的な髪型も女神様の流行だったりするんでしょうかね?」


マキノさんがキラキラした眼で聞いてきた。


「ど~なんですかねぇ。なんか怖くて聞けなくて。そういうもんかなって無理やり納得してるんですけどね。」


「私前に素敵な髪型ですね!って言ったら、そらそうよ!私の魂やからな!って言ってました!」


魂てなんだよ。


「お風呂上がりでも、当たり前のように同じ髪型なんですよね。不思議ですよね。女神パワーでしょうか?」


いかなる時でもチリチリパーマになるパワーとか、それはもう半分呪いなんじゃないか。



「じゃあ、まさよしさんは、その、ローブの人?とかいう人に頼まれて魔王を討伐するんですよね?」


次は魔王討伐について聞いてきた。


「はい。・・・と言っても、自分でもよくわからないんですけどね。女神様が相棒になるから。って聞いたくらいで、何の説明も無かったし。」


「よくまぁそんなんで魔王討伐しようってなりましたね・・・。まさよしさんも充分に変わってますよ。」


笑いながらマキノさんが言う。出会った頃から思っていたけど、マキノさんはよく自分の感情を表に出す。本当に楽しそうに笑うので、見ていて僕も楽しくなる。


「でも、マキノさんだって、いるかどうかもわからないような魔王を討伐しようとしてる僕達と一緒にいるじゃないですか。マキノさんも変ですよ!」


僕が笑いながら言うと、マキノさんは突然真顔になった。あ、あれ・・・?選択肢を間違えただろうか?



「・・・実はね。私も、最初から魔王はいると思ってました。」


ふいに、悲しそうな表情になってしまったマキノさん。そういえば、マキノさんは魔王なんかおとぎ話で実在しない派だって言ってたような。


悲しい顔をするのは、僕達にウソをついた罪悪感からだろうか。


「そ、そうなんですか?いや、まぁ、いいんじゃないですか?別にだまされた~!とかウソつかれた~!とか全然思ってませんよ?」


モンスターがウロウロする世界なんだから、そんな存在がいるって信じててもおかしくないと思うんだけど、どうして悲しい顔をするんだろうか。


「いえ・・・。そうではなくて・・・。その・・・。すいません。」


何か、言えない複雑な気持ちや事情があるように思えた。本当は打ち明けたい。でも、あと1歩踏み出せない。そんな感じがした。


「あの、言いたくないというか言えない事があるなら無理して言わないでもいいですよ。異世界の話だって僕は言ってなかったわけだし。」


「・・・はい。ありがとうございます。」


マキノさんの心の中にどんなわだかまりがあるのかは知らない。ただ、彼女は僕の大切な仲間だから、悩んで暗い顔をしてほしくない。


元気に笑っていてほしかった。


「そ、それにほら!あの、そんな悲しそうな顔してたら、あの、せ、せっかくの可愛い顔が、台無しでしゅよ!」


噛んだ。でしゅよって言ってしまった。勇気出したのに。顔が風呂上りより暑い。超恥ずかしい。


そんな僕の顔を見て、ハっと驚いたような、それでいてとても嬉しそうな顔をしてマキノさんは微笑んだ。


「そうですね!元気出していかないといけませんよね!もう少ししたらドラゴン倒すんだし!」


そう言って立ち上がって胸を張るマキノさん。


「そ、そうですよ!頑張りましょう!」


ふいに、マキノさんが、まだベンチに座ったままの僕の方にかかんで顔を近づけてきた。


「ありがとう。・・・マー君。」


そう言って、僕の顔の前で微笑んだ。気のせいか、マキノさんの顔まで赤いような気がする。


「ど、どういたしまして。」


ゴブリンに殺された時よりドキドキした。


「さ!それじゃ今日は帰りましょうか!話し込んだらちょっと暗くなってきたし!」


僕に背を向け元気に背伸びするマキノさん。


「そうしましょうか。よしえさんも帰ってきてるかもしれないしね。」


僕もベンチから立ち上がり、2人で並んで歩いて帰った。最初の頃より、いくらか自然に会話も出来た。


マキノさんの心の中にある何か。いつか教えてくれる日がくるんだろうか。別に、来なくてもいいかもしれない。僕達は、大切な仲間なんだから。



その後、宿に帰った僕達を待っていたのは、神のお告げとやらで大勝した女神様だった。

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