魔法文明の移動事情

王都へ向かう馬車に乗って、まず最初に驚いたのがやっぱりその大きさだった。


ゆったり腰掛けられるソファーが2脚に、なんか冷蔵庫のような物の中に飲み物まで入ってあった。


「なんか凄い大きいですねよしえさん!ソファーもフッカフカですよ!」


俺の知ってる馬車と違う。これが異世界標準なのかと思いきや、よしえさんやマキノさんまでキョロキョロしていたので、やはり特別らしい。



そしてなにより驚いたのが、この馬車は速い。そして揺れない。



一応外観では馬車に車輪が付いていたものの、実は魔法で少し地面から浮いているらしく馬車自体の重量というか抵抗がほとんど無いのだそう。


外から受ける様々な衝撃の類も魔法の力で相殺されるらしく、揺れはまったくと言っていいほど感じない。外を見なければ止まっているとしか思えない。


さらに、引いている馬も魔法でドーピングされた特別製で、そのスピードは凄まじい。



そして極めつけが、高速馬車道の存在だ。



いくら馬車が浮いていて馬が速くても、それを走らせる道が無ければ宝の持ち腐れだけど、その道がちゃんと存在するのだ。


高速で走る馬車専用の道。窓の外の景色は、完全に異世界のそれだった。目の前を、ビュンビュン馬車が走っていくのだ。


中には大型の連結馬車まであって、その様子はトレーラーさながら。でも、馬車なのだ。なんだこれ。


高速馬車道の両サイドは2m程の高さの塀が続き、その塀には魔法やら物理やらに対する障壁が張られているそうで、正規の入り口以外での外部からの侵入を許さない。


それでも最初の頃は入り口から徒歩でひょっこり入ってくるモンスターなんかも居たらしいが、そのどれもがほとんど馬車に撥ねられて木っ端微塵になったようで、モンスターも近づかないようになったそうだ。


「これなんですかよしえさん・・・。俺が知ってる馬車と全然違うんですけど。凄いスピードで凄い怖いんですけど。」


「魔法の力で人が浮く、物が浮くんやで?そらこんな交通手段があってもおかしくないやろ。」


そう言われてみれば、魔法が無い世界で生まれ育った僕からすれば完全に異世界のそれだけど、魔法がある世界の文明だと思えばこうなってもおかしくないような気もする。


動力や燃料に相当する物が魔法なのだとしたら、こんなもんかと納得できる。


むしろ、民間レベルで自由に空飛ぶ靴が売られているのに移動手段だけポックリポックリガタゴトと馬任せなら、それの方が不自然に思える。


僕が元居た世界でもし魔法が普及したとしたら、きっともっとエグイ発展を遂げたに違いないのだから。



それでもやっぱり速い馬や浮く馬車を買うにはそれなりにお値段が張るようで、誰でも簡単に高速馬車道を利用出来るという事ではなさそうだった。


「でもこれなら、浮いた馬車の本体をそのまま前に進ませれば馬いらないんじゃないですか?」


と誰ともなく聞くと、従者の人が答えてくれた。


「そういう方法も当然あります。でも、まぁ単純な話ですが、じゃあスーっと前に進む本体をさらに馬で引けばもっと速い。という事ですよ。」


とニッコリ答えてくれた。なるほど。


「ただ、それも馬車レベルのサイズの話に限りますが。例えば、もっともっと大きなサイズの乗り物であれば、馬で引くより大規模な魔法の方が速いですかね。」


と従者の人。


「王都に行けば、空飛ぶ船なんかもありますよ。でも、作るのにも飛ばすのにも莫大なお金が必要になるのであまり使われません。」


なるほど。先立つものが無い事にはどうしようもないのか。


「それに、あくまで個人の意見ですが、陸路の方が旅をしている感じがして好きですね。風情がありますよ。」


そんな事を言う従者の人。だが、窓の外を見れば高い塀が続き凄い勢いで景色が流れていくので、これに旅の風情があるかどうかは個人差を感じる。



「それにしても王都が楽しみですね!この馬車を引いてる馬よりももっと速いモンスターが無差別級にはいるんですよ!凄いですよまさよしさん!」


キラキラした目で熱く語るメイドさん。頭の中は王都でのレースでいっぱいだ。


「これより速いんですか!?」


「そりゃもう!世界は広いんですよ!」


それはちょっと見てみたい。


「脚がいっぱい生えた大型の馬みたいな生き物が、凄い速さで脚をワシャワシャと動かしてですね!!」


なにその悪魔の生き物。想像したらだいぶ気持ち悪い。



そうして高速馬車道を行く事4時間、一般馬車道を10分ほどで、王都が見えてきた。

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