そもそも魔王とは?

「おはようございます!まさよしさん、よしえさん。」


「お、おはようございます。」


先日、僕達の身の回りの世話をしたい。という理由でやってきて、割りと強引に我が家に住む事になったメイドのマキノさん。


メイド的な事ならなんでもお任せ!という事で、今日の朝食もマキノさんの手作りだ。


これがまたとても美味しい。よしえさんのご飯も美味しかったが、マキノさんのご飯は1ランク違う。


「ごちそうさまでした。」


美味しい朝食をいただいて、1つ思う事がある。



この世界はとにかくやる事がない。



友人がいるわけでも土地勘があるわけでもないし、ネットやスマホのような物も無い。ご飯を食べたら後は木刀か素手で殴られるくらいしかする事がないのだ。


そこで、今日は1つ今後の未来のためになる事をしてみようと思いついた。


「あの!ちょっといいですかね?少しお話したい事があるんですけど。」


そう言って、僕は会話を切り出した。


「前によしえさんにも聞いたんですけど、魔王ってどんな人なんですか?」


これまでにも何度かよしえさんにも聞いたけど、いつもふわっとした返事しか返ってこなかった。マキノさんなら何か知ってるかもしれない。


「魔王・・・ですか?」


何言ってんの?という顔でこちらを見てくるマキノさん。そういえば、僕達の目的を言ってなかった気がする。


「えっと、僕とよしえさんは魔王を討伐する目的で旅をしています。今この街にいるのは、一応その旅の途中です。」


まぁ、最初に訪れた街なんだけどね。この世界の事何も知らないし。


「あ、いえ。そういう目的の話ではなくてですね。魔王を倒す?というのがよくわからないというか・・・。」


不思議そうなマキノさん。


「え?どういう事ですか?」


この世界の人は魔王に困らされているのではないのだろうか。


「どういう事・・・。というか、どうしてまさよしさんは、そんな事を聞くんですか?よく知らないのに討伐するんですか?」


呆れたような顔でマキノさんは聞いてきた。なんか今さらだけどそう言われたらそうだよな。よく知らないのに討伐するってなんだよ。怖いよ。


「そこはちょっと・・・。事情がありまして、遠い国から来たのでその辺の常識にうといのです。」


よくある定番のウソをついてみた。


「そうですか・・・。わざわざ遠い国から、よく知らない国によく知らない魔王を倒すためにやってきた。と。」


ぐっ・・・!なかなかするどい!というか、そう言われればそうだよね。


ある日突然聞いた事も無い国から『よく知らないんですけど総理大臣とかいう人を討伐しに来たので詳しく教えてください』とかいう外国人が来たら、普通は頭おかしいと思うよね。


「ま、まぁ、その辺の細かい事情は・・・たぶん言っても信じてもらえないと思うので、とにかく、少しでも魔王の事を聞きたいのですが・・・。」


強引に乗り気る作戦だ。


「はぁ・・・。えっと、一応、魔王という名前はありますよ。でも、概念というか、おとぎ話みたいなものですかね。」


どうみても納得してない顔でマキノさんは続けた。


「ここに限らず様々な街や城がモンスターの脅威にさらされてますから、それを統率するような存在が居てもおかしくないのでは・・・?くらいの感じで、それを仮に魔王としている。という感じです。」


なるほど。悪い意味での神様的な立ち位置なのか。


「じゃあ、見た事とかは無いんですね?」


「そうですねぇ。まぁ、私に限らず誰に聞いてもだいたい同じような感じの答えだと思いますよ。おとぎ話の登場人物を討伐しようとしてる。という感じですから。」


思ったより状況は厳しい・・・。というか、本当にそんなの居るの?


「魔王はおるよ!あいつは・・・。悪い奴や。」


これまで静かに聞いていたよしえさんが突然大声を出した。


「ビックリした!・・・どういう事ですか?」


「魔王はおるよ。おとぎ話やないで。」


真面目な顔でそう言い切るよしえさん。


「どこにいるんですか?どんな人なんですか?」


詰め寄ってみる僕。


「それは・・・。その・・・。」


下を向いてしまうよしえさん。


「詳しくは、言えんのやけど、おるよ。」


いつもこうなってしまう。何か深い事情があるんだろうか。


「・・・わかりました。じゃあ、魔王っていう存在は確かにいるけど、いまのところは結局何もわからない。という事ですかね。」


まったく進展が無かったというわけでもない。魔王について、居ると言い切る人とおとぎ話だという人がいる。という事はわかった。


この温度差はどこからくるのか?これを知る事が当面の目標になるだろうか。


自分から切り出しといてなんだけど、なんとも言えない微妙な空気に包まれてしまった。重苦しい感じになる食卓。


「・・・そうだ!お2人とも、あまりこの街について詳しくありませんよね?もしよかったら、3人で街の観光をしませんか?私、案内しますよ!」


そういえば、ろくに街の事知らないなぁ。せっかくの申し出だしどうせヒマなので、僕達は3人で街の観光をする事になった。

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