飛ばねぇキャベツはただのキャベツだ

「マー君!起きや!朝やで!!」


やたらに響く大きな声で起こされて目が覚めた。ふと最初に目に入ったのは、見知らぬ天井だった。


「・・・あぁそうだ。ここは異世界なんだった。」


誰にともなく、1人つぶやいてベッドから起き上がる。正直異世界だという実感があまりわかないのは、よしえさんが女神過ぎない事が原因かもしれない。


「マー君て!ほら!はよ起きや!朝やで!」


「はーい!今行きます!」


2階にある自室から、よしえさんの声がする1階の食卓へ向かうと、そこには朝食が用意されていた。


そういえば、結局昨日は何も食べていない。これが初めての異世界飯という事になる。


「ご飯出来たよ!はよ食べよ!」


「おー!なんか美味しそうじゃないですか!」


そこに用意されていたのは、ご飯と味噌汁と肉野菜炒めだった。お互い昨日何も食べていないので、朝にしては少し多めのご飯だった。


しかし。美味しそうなのはいいけど、そもそもこれが何なのか気になる。一応は異世界だから、元の世界と同じではないと思うんだけど・・・。


「よしえさん!これはなんですか?」


ご飯風の何かを指差し聞いてみる。


「ご飯よ。白ご飯。」


「じゃあこれは?」


「それは味噌汁よ。」


・・・どうしよう。本当は異世界じゃないんじゃないだろうか。壮大なドッキリかもしれない。


「じゃあこれは?」


メインのオカズを指差して聞く。


「肉野菜炒めよ。」


『何の肉?』という事が本当は聞きたかったけど、どうせ聞いてもわからないし考えるのはやめた。野菜が飛んだり逃げたりしない世界観なだけまだマシだと思うようにしよう。


「では、いただきま~す!」


これが、なんとも美味しい!ご飯はご飯だし味噌汁は味噌汁だし、肉野菜炒めは肉野菜炒めだった。


よくわからない豆と干し肉と固いパンが基本。みたいな食生活じゃなくてよかった!



よしえさんが作ってくれた美味しい異世界朝食を食べ終わり、特にする事も無いのでそのままダラダラしていた。


「そういえば、シャイニングになった次の日は足腰が痛くなるって言ってませんでした?」


「ん~~。そうなんやけど、なんでか今日は調子がいいんよ。さてはアレかな。昨日のアレが効いたんかな?」


そう言ってニヤニヤするよしえさん。初めて迎えた2人の朝。みたいなシチュエーションだけど、相手はパーマネントミセス。


サーロインの誘惑には負けなかった。



そんな話をしていると、なにやらお客さんがやってきた。


「すいませ~ん!町長ですが!よしえさんとまさよしさんはいらっしゃいますでしょうか?」


どうやら町長さんが僕達を訪ねてきたようだった。


「はいは~い!今行きます。」


そう言って、よそいきの声で返事をするよしえさん。町長さんを家に迎え、食卓から居間に移動し3人で話す事に。


「あぁ!すいません朝早くに。今日は、ちょっとお2人にお願いがあってきたのですが・・・。」


「僕達にお願い?」


「はい!あのぉ・・・。先日この家をお貸しする時のお約束の件で・・・。」



実は、僕達がこの家を借りるにあたって1つだけ、町長さんから条件というかお願いがあった。


それは『街の近くにモンスターが現れた時にその討伐をしてほしい』というもの。


オークを倒したシャイニング・よしえさんの力はそれは凄いものだったので、それをアテにするのは町長としては当然だろう。


もしかすると、この家も実は英雄に対するお礼半分。用心棒の雇用料半分。というところなのかもしれない。


なんにせよありがたい話ではあるけど。


「実はですね。街の近くにある農園地帯にスライムの亜種が出現して畑を荒らしていまして、それを退治していただきたいのです。」


スライムって畑を荒らすのか。見た事無いから知らないけど、なんか意外。野菜食べるのかな?


そんな感じで、どうやら僕達はスライム退治をする事になりそうだった。

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