それは大きな悪意の固まり

街が・・・燃えている・・・。


街の様子がおかしい事に気付き、慌てて入った僕とよしえさんが見たのは燃える街と逃げ惑う人々だった。


「なんやこれ・・・。なんでこんな事に・・・。」


どうしてこうなった・・・。しかし、悩む必要はなかった。原因の方が自らアピールしてきたからだ。


「グオォォォォォォ!!!!」


大きな咆哮が聞こえたのでそちらに向かうと、身長3mはあろうかという武器を持ったバケモノが暴れていた。


緑の地肌に手作り感溢れる粗野な作りの棍棒を持ち、僕の中のイメージでいえばまさしくオーク。


その推定オークが、棍棒を振り回し街を破壊して回っていたのだ。しかも、咆哮は複数聞こえてくるので、こいつ一体だけではないようだった。


「・・・あ、あ、あ、あああああ!も、も、モンスターですよよしえさん!!!!」


怖い。怖い。怖くてたまらない。自慢ではないけど、僕はこれまで喧嘩らしい喧嘩もした事がない。


人を殴る。殴られる。考えただけでも怖い。そんな僕の目の前で、ただひたすらに大きいオークが武器を持って、明確な殺意を持って暴れている。


オークの周りには、どう見ても一目で助からないとわかる人達が転がり、もはやそこに命の尊厳など無かった。人であったナニか。


「ぐえぇぇぇぇぇぇえ!!」


胸の奥から何かが一気にこみ上げ、吐いた。さっきから足の震えも止まらない。いや。震えているのは全身だ。


「・・・な、なんちゅーヒドイ事をっ・・・!!」


怒りからか。よしえさんが震えている。でも、恐怖で震えて動けない僕と、平凡なパーマネントミセスのよしえさんではあのモンスターをどうこうできると思えない。


「許さん!許さへんでモンスターー!!」


そう大声で叫ぶと、突然よしえさんが真っ白に光り出した。発光よしえの光はどんどん増していき、ついに目も開けていられないほどのまぶしさになり周囲は光に包まれ・・・。


光が収まり、次に僕が見たものは、信じられない光景だった。


そこに居たのは、さっきまでのパーマネントミセスではなかったのだ。


白銀の全身鎧に身を包み、腰まで伸びた綺麗な金髪のストレートヘヤー。いわゆる女騎士といった見た目。くっ殺!が似合うその外見。


よしえさんはどこへ・・・?


突然、女騎士が手を正面に伸ばしなにやら呪文を唱え始めた。すると、広げた手のひらの前に立体的に描かれた赤い魔方陣が出現し、空中でクルクル回り始めた。


「外道共を焼き尽くせ!!ファイヤーーーボーール!!」


女騎士がそう叫ぶと、1mほどある炎の球が次々浮かぶ。浮かんだかと思った火球はどれも凄いスピードでバラバラに飛んでいった。その数は20は下らない。


そのうちのいくつかが、今目の前にいるオークの元へと飛んでいき、凄まじい轟音と共にオークに着弾した。


「ガァァァァァァァ!!!」


大きさ、スピード、そして熱量。どれほどの破壊力か考えたくもないその火球の直撃を受けたオークは、断末魔の叫びをあげて絶命した。


他の場所からも断末魔が聞こえる。つまり、よしえさんが放ったファイヤーボールは街の中のオークを狙って焼いたのだろう。


ふと、目の前のオークにやられたのだろうか。ひどく全身をケガした女性が横たわっているのが見えた。するとすぐによしえさんがその側に向かった。


「ヒール!」


その女性の周囲に柔らかな緑の光、地面には綺麗な魔方陣が出現。女性の傷はどんどん癒えていった。


「・・・す、凄い!」


攻撃に回復に、女騎士は万能の活躍を見せた。それからも、目に見える怪我人を次々に癒していく女騎士。


その様子を僕が呆然と眺めていると、突然、なにやら大きな声が響いた。

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