訓練後3

 バナスカ国。 その国は、村から一番近い国であり、かつては、その豊かな土地を生かし農業が盛んだった国。 大通りに出れば、麦や、果物を主とした出店が並び、品を定期的に仕入れに来る商人たちでごった返している、とても賑わいのある国と聞いていたのだが。


「始めて、バナスカ国に来たのですけど、酷い有様ですね」


 ミレイが思わず呟いた視線の先には、物乞いや、餓えて今にも息絶えそうな人々が点々としていた。 昼間にも関わらず、活気は無く、皆が力のない目でこちらを見ている。 かつては賑わいを見せていたであろう大通りでこれなのだ。 この国は終わっている。 それがこの国に対する感想だった。


「まあ、戦争中なんて、どこもこんなもんだろ、さて、そこで問題だ。この国を立て直すにはどうしたらいいと思う?」


「食料を配給するとかですか?」


 急に話を振られたミレイは、ごくごく普通の答えを述べる。 その答えが気に入らなかったのか、オルガさんは、ため息をついて首を振った。


「不正解だ。確かに今回、食料は使うが配給という形で無意味に配ってしまっては、ごく一部だけが満たされるにすぎん。しかも、効果は一時的。食事が終われば恩義も忘れるだろうよ。答えはもっと単純。この国を落とす事だ」


「はい?」


「統治者が変われば経済の流れも変わるだろ。簡単な話だ」


 統治者を変える? 国を落とす? 流石に話が飛躍しすぎていて、意味が分からない。 オルガさんは、いったい何を言っているのだろうか。


「あの、オルガさん……私たちを旅に連れていくかテストをするために、この国に連れてきたのではないのですか?」


「そういえば、そんな事もあったな。じゃあ国を落とせるかどうかがテスト内容って事で」


「いや、いやいや。それは無理です。国を落とすって何ですかそれ?そんな事できないって子供でも分かりますよ!!」


 オルガさんも無茶を言う。 というか、そんな無理難題を吹っかけてまで私たちを連れて行きたくはないのか。 あのような地獄の訓練を受けさせるだけ受けさせて、ふるいにかける事すら真面目にする気が無いのか!?


 オルガさんの不真面目としか例えようのない態度を見て、しだいに、苛立ちが腹の底から込み上げてきた。 だが、当のオルガさんは平然と言葉を返す。


「何を言ってやがる、国を落とすことは出来る。簡単だ。それに、お前言ってただろ? 国が憎いとか、だったら支配すればいい。国を、そして民を、己のものとすれば少しはマシになるだろ?」


 目を背けずに、真っすぐにわたしを見て、返してきたその言葉が、本気で言っているの様な気がして仕方がなかった。 だが、オルガさんがいくら本気で思っていても流石に国を落とすことは無理だろう。


「本気ですか? 本気で国を落とすと? 私はただの村人ですよ?」


「アホ、お前はあの村の出身で勇者の血を引いてるんだろ? なら村人でも充分だ。身分なんて必要ねぇよ」


「??」


 村人で充分? オルガさんの言っていることは、いつも飛躍していて理解ができない。


「お前は、俺の訓練に耐えた。未だ弱いが、それに見合った報酬は得るべきだろう。任せておけ、こういう事は得意だ。俺を信じろ」

 

 その言葉は、今までオルガさんと交わしてきた言葉の中で、一番重みがある様な気がした。 反射的に頷くと、珍しくオルガさんは、ニヤリと笑いメルスさんを呼ぶ。


「メルス、これだけ民が疲弊しているなら、反政府組織の1つや2つ存在しているだろ。調べはついているんだよな」


「はい、もちろんですオルガ様、歩行訓練を行った際に調べ終えました。この国では、かつて農民だった者たちが集まり、そのような組織を立ち上げていますね」


「よし、その組織の長がいる場所へ案内しろ。それと大体は予想できるが、その組織の活動内容も聞かせろ」


「分かりました。それではオルガ様ついて来ていただけますか」


「よし、お前ら付いてこい、これから面白くなるぞ」


 意気揚々と歩き出すオルガさんの後ろ姿が、わたしには、少し頼もしく見えた。

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