訓練4
「あれは……一体?」
クランを追いかけて来てみれば、これは何が起こっているのだろうか。 爆音と共に何かが地面をえぐり、絶え間なく粉塵が舞い続ける。
ただ立っているだけで嵐の中にいるような錯覚にとらわれる中、立ち尽くすクランの姿がそこにはあった。
「クラン、無事?」
走って近づき、クランに話しかけたが、声に反応を返すことなく、ただ粉塵が舞う中心を魅入られたように眺め続けている。
「クラン、しっかりしなさい、大丈夫?意識はある?」
反応を示さないクランに不安を覚えて、両肩を掴み前後に揺らす。すると、我に返ったのかクランは反応を返した。
「ミレイ姉…さん」
反応が返ってきたことに内心ホッとしつつも、クランの目を見て焦点が合っているかを確認するが異常は見当たらない。 とりあえずは魅了の魔法には掛かっていないようだ。
「一体、あれは何なの? 召喚獣が暴れまわっているのは分かるのだけど尋常じゃないわよ。この場で何があったの?」
「メルスさんが、あの化物と戦ってる」
「へっ?」
振り返り視界を魔力で強化する。 確かに人影の様なものが絶え間なく動き回っているのは辛うじて確認できたが、あの召喚獣と互角に戦ってるとはにわかに信じられなかった。
いや、今はそんな事はどうでも良い。 どの道、私達には戦うという選択肢は無いのだ。 一刻も早くクランを連れてこの場を離れなくては。
「と…とにかくクラン、この場から離れましょう危険すぎる」
そう言ってクランの右手をとり、この場から離脱しようとした瞬間、今までにないほどの轟音と共に一つの影が地面を跳ねながらゴロゴロとこちらへ転がってきた。
「メルス…さん?」
服が破け、体のいたる所が出血しているが、メルスさんは何事もなかったかのように起き上がると砂埃を払い立ち上がる。
「おや? クランさんもこの場に来られたのですか?あれを倒すのはあなた達では少しだけ荷が重いと思いますが、せっかくです、戦っていかれますか?」
彼女は、体中が傷だらけであるにもかかわらず、まるで何のダメージも負っていないかのように平然と話しかけてきた。
「痛くは無いのですか」
「全身をマヒ状態にしているので痛みは無いですね。ただ致命傷を避けているとはいえ、出血量を見るに、そろそろ体が限界に近いかもしれません」
まるで他人事のように言うメルスさんは、ゆっくりと召喚獣の元へと歩き出そうとする。 その様子を見て反射的に手を掴み、彼女を引きとめた。
「それならメルスさん一緒に逃げましょう。そんな傷を負ってまで無理することは無いですよ」
「いえ、私はここで奴をしとめるつもりです。召喚獣の回復は早い、時間をおいたら回復してしまいます」
「ですが、このままではメルスさんが死んでしまいますよ」
「今回の戦闘で、どちらにしろ体力をかなり使ってしまいましたので逃げたところで2、3日寿命が伸びるだけです。それならば、この場でできる限り、あがいた方が気持ちよく死ねそうだ」
その言葉を聞いた瞬間、思わず右手を振り上げメルスさんの頬を思いっきり叩いていた。
「何をするんですか? 痛みは無いとはいえ流石にびっくりします」
「命を粗末にするようなことを言うからです。気持ちよく死ねるとか馬鹿なこと言わないでください!!」
体中の魔力をかき集めてメルスさんの傷を回復させる。 しかしオルガさんから渡されたリングが魔力を吸収するため、思ったように傷が塞がらない。 それでも必死に体内から魔力をかき集めて、何とか彼女の傷をふさぐ。
「これは…」
「回復魔法です。あなたがこの場で命を懸けるというのならば、私も全力でそれをフォローします。傷ついたら距離をとって戻ってきてください。魔力の続く限り回復します。その代わり約束してください、絶対に死なないと」
「ミレイさん……わかりました約束します」
実に彼女らしい短い言葉で返答すると、彼女は召喚獣の元へ人間の認知できる範囲を超えた速度で駆けて気が付くと戦闘を再開していた。
「ミレイ姉さん、メルスさんを送り出してよかったの?」
「分からないけど、どの道、私たちの体力も限界に近い。それなら彼女に賭けてみるのも悪くは無いでしょ」
再び粉塵が舞う様子を二人で眺め、そして二人は、メルスが勝つことを祈る事しかできなかった。
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