外出2
村に近づくオルガとメルスは、村の入り口が、どこにあるのか分からず、グルリと村の外周を歩いていた。 というのも、普通の村ならば柵で周囲を覆う程度にしかバリケードを張らないはずなのだが、この村は村全体が壁で囲まれており、入口らしい場所が、どこにも見当たらなかったためである。
「ちっぽけな村の癖に何を考えて、こんな作りにしてんだよ。 メルス、もしかして俺が来ることを、この村の住民は知っていたりするのか?」
「いえ、そんなはずは無いのですが、ん?人間が壁をすり抜けて出てきましたね。特殊な魔術でしょうか?」
2人の前に立ちはだかる様にして出てきた人間をメルスは観察する。 人間の年齢で15歳ほどの小柄な体型の少女だが、見た目に似合わないほど、体からあふれる生命エネルギーを感じた。
武器は腰に下げた短刀だろうと予測を付けて戦闘スタイルを考察する。 武器が小柄なため、力よりも素早さで攪乱(かくらん)して手数で仕留めるタイプ。 魔力はソコソコあるようだが、あの程度では回復魔法数回分しか使用できないだろうから魔法攻撃は無いと考えて良いだろう。 どちらにしろ、まだ完成していない未発達の人間だ。 魔王様が満足できるレベルではない。
「おいメルス、いちいち相手を観察しなくていい、ただでさえ人間は弱いんだ。弱点を探ったら楽しみが減るだろう」
「すみませんオルガ様、つい癖でして」
メルスが相手を考察している事を見抜いたオルガが叱咤した。
「何度来ても無駄だと言っているだろう。立ち去れ」
そんな中、少女は偉そうな口調で2人に出ていくように促す。 その言葉を聞いたオルガが、メルスに耳打ちする。
「……コイツ急に何を言い出してるんだ?ひょっとして、お前、何回かこの村に来ているのか?」
「いえ、下見をする暇もなかったので、私もこの村へは初めて来たのですが……。誰かと勘違いをされているんでしょうかね」
2人してヒソヒソと話し込む。 立ち去る様子もなく2人して話し合っていたことが癪に障ったのか。 少女は先ほどより荒い口調で言葉を発した。
「何をコソコソ話している。早くこの場から立ち去れと言ったんだ聞こえなかったか」
「うるせーな、とりあえず勇者を出せ、話はそれからだ」
「また勧誘か。手荒な真似はしたくはなかったが」
訳の分からない事を言って、少女は短刀を抜いた。
「最後の警告だ。 大人しく帰れ」
「断るっつってんだろ? 耳がねえのかクソガキ」
オルガの安い挑発に乗った少女は、瞬間、間合いを詰めてオルガに斬りかかる。
「遅せぇ。舐めてんのかお前?」
――がコレをオルガは難なく避ける。
「素人だと思っていたが。本気で行くぞ」
少女は避けられたことが、一瞬信じられないと言った表情をしたが、直ぐに正気に戻り再びオルガに斬りかかった。だが、いくら年に似合わない生命エネルギーを持っていたとしても所詮は子供。その程度では魔王オルガに傷がつけられる訳が無い。
「いや、さっきとあまり変わらねぇーじゃねぇーか」
案の定と言っていいだろう、少女の振り下ろす腕を難なくつかんだオルガは、ツッコミを入れながら、あしらうように軽く少女を地面にたたきつける。 何故か、受け身も取らずに地面に叩きつけられた少女は、10メートルほどバウンドして地面へと転がり動かなくなった。
「ええ?軽く地面にたたきつけただけだぞ?これで終わりとか嘘だろ?」
「人間は脆いですからねぇ。そういえばオルガ様、知ってますか?私たちが魔界で飼っている食用の家畜がいるじゃないですか、アレたまに人間界に逃げてくるらしいのですが。人間どもは魔物と言って食べもしないのに殺すらしいですよ」
「えっ?何それ意味わかんねぇ。何で食わないのに殺すんだ?」
「さあ?学説によれば。人間は家畜を殺した数で強さを示しているとか文献に書いてありましたね」
「家畜で強さを示すって謎すぎるだろ?何の儀式だよ。しかし、1番初めに出てきた者がこの程度とは、あまりこの村に期待は出来そうもないが……まあいい。 メルス、そのガキに回復魔法かけろ、村を案内させる」
メルスは短く返事を返して少女を回復させる。 意識の戻った少女は飛び起きて再びオルガに襲い掛かったが、オルガは少女の首を軽く掴むと自分の目線と合うように手を伸ばして持ち上げた。
「もういいだろ、勇者出せ、勇者。お前じゃ、トロ過ぎて準備運動にもならん」
オルガに首を絞められた少女は、顔を赤くすると空中で足をジタバタさせている。初めの内は何をしているのだろうと思ったが表情がだんだん青ざめるのを見て窒息しているとメルスは気が付いた。
「オルガ様、ひょっとして彼女は息ができないのでは?」
「そうなのか?」
オルガが手を離すと少女は、その場で倒れ込み、せき込んだ。
「もう一度言う、勇者を出せ」
「もう、この村には、戦える者は私しかいないんだ、私が子供たちを守らないと」
酸欠でフラフラになりながら再び武器を手に取る少女は、焦点も定まっておらずオルガに斬りかかる。 しかし、少女の発した言葉の衝撃の方が大きかったのかオルガは避けもせずに、されるがままに攻撃を受けつつメルスに視線を向けた。
「おい、メルスどうなってやがる。勇者いないらしいぞ?」
「すいません、調査不足としか。本当にすいません」
この後メチャメチャ怒られるであろうことを想像したメルスは、ブルッと背筋を震わせた。
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