熱さの幻影
黒百合
第1話 いつもと変わらぬ
泥のように重たい体をバイトの2時間前に起こして、服を着替えて朝と昼兼用のごはんを食べて、動画を見ながら時間を潰し、バイトに出勤し雑用のような仕事を淡々とこなし、仕事が終われば家に帰り、遅めの夕食を取り、お風呂に入り、そのまま夜中までスマホを見ながら気絶するように眠る。
そんな生活を続けている。
手付かずの課題、片付けなければいけない汚いままの部屋、自分の仕事が山積みのように感じ、他人にはどうしようもないことなのだが、だからこそ誰かに縋りたくなり、ここではないどこかに行きたくなる。
でも、どこへ?どこでもないのだ。
自分の目的地など、どこにもありはしない。
小さい頃は好きなキャラクターものの小さいリュックに全てを詰め込んで、逃げてしまえば良いと思っていた。
その全てが、幼児向けの本や落書き帳、黒が異様に短いクレヨンや着せ替え人形、おままごとの果物、お気に入りのワンピース…などだった私にとって、世界まるごといつも遊んでた公園や、保育所や、近所のスーパーだと思っていたのだから逃げること捨てることなど容易だった。私はなんと自由だったのだろう。歳を重ねる度、可能性や夢が小さくなっていく。
なんど、私は自分に絶望したかわからない。
テンプレのように、本やドラマなどの感銘を受けた言葉を並べてみてもどうもしっくりこないので、分かりやすく言い換えてみよう。ようするに、不安だ。鍋にこびりついた錆のような、拭えないそれでいて執拗な不安。
ふと、窓の外を見る、あぁ項垂れるような快晴。何度、この太陽に喜んだり悲しんだりしただろうか。人間というものは、思ったよりも単純な生き物だ。天気ひとつで心動かされてしまうのだから。
少しだけ、逃げてみよう。でも、どこへ?どこへだっていい。そうだ。君と会わなければいけないんだった…こんな私の長期休みのたった一つの大事な用事。
私は大きな期待に胸を膨らませ、いつもと変わらぬ日常を塗り替えていくことにした。
熱さの幻影 黒百合 @blacklily0222
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。熱さの幻影の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます