第46話 現実と、仮想と

「少なくとも、仕様書には無いですね」


メイルが紙の束をパラパラめくりながら言う。

普通にシステムメニューにあるけどなあ。


「それで、キミはいったい、どんな種族なのかな?」


女神様が、オトメに尋ねる。

んん?

女神様すら把握してない種族?


「私、ですか?私は、オートメディック種です」


「・・・自動修復・・・?聞いた事が無い種族だね。無論、進化ツリーを完全に支配下においている訳ではないが。非生命体なら分かるけど、ちゃんと魂の輝きも有るしね」


女神様が訝しげに言う。

オトメも、小首を傾げる。


「オートメディック種とは、どの様な種族ですか?」


メイルが尋ねる。


「オートメディック種は、外敵との戦闘や、事故で傷付いた同朋を、修理する種族です」


名前の通りか。

オトメが続ける。


「他の機能としては、他世界に単騎で侵入し、潜伏、コロニーを建造し、同朋を生産する機能や」


んん?


「コロニーの規模が一定になれば、新たなオートメディック種を造り、異世界へと転移させます」


「侵略的次元渡航種のマザー種じゃないか。発見次第、即駆除が必要な、神敵だよ。何故従魔なんてやってるんだい」


女神様が呆れた様子で告げる。

あれ、不味い・・・?


「私は、この世界に敵対するつもりは有りません。コロニーも造りません。だって、乙女だもん」


「・・・分かった。シルビア、キミも気をつけておいてくれ」


女神様がこめかみを押さえる。


まあ、話はこんなところか?


「それにしてもキミさ」


女神様が切り出す。

何だろう。


「よりによって、サクラに手を出すとは・・・」


えええ・・・


「キミも、人間としての欲は有るだろう。とやかく言うつもりは無いし、むしろ歓迎する。ロリアも、実年齢で言えば、問題無いだろう・・・でも、いくらなんでもサクラは・・・キミは、どのくらい年齢差が有るか分かっているのかい?」


女神様が、呆れた様に言う。


確かに、サクラはかなりの高齢なのだろう。

ロリアに比べれば、知り合ってからの期間も短いし。

かなり流されて関係を持ったのは事実だ。

リアルで会って、関係を望まれても、承諾する自信は無い。


ゲームと、リアルと。

それは切り離す事ができるのか。


それでも・・・


「正直、胸を張れるとは思ってません。ですが・・・ゲームの・・・俺が知っているサクラは、あのサクラなんです。だから、私は、自分が間違ったとは思いません。私は・・・サクラが好きです」


今、この瞬間、この気持ちは、本物だと思う。

それは・・・自信を持って言える。


「・・・うわ」

「引きますね」

「引くのう」

「ご主人様!私は良いと思います!」


女神様、月花、フェリオ、メイルの反応。

何でだよ。

まあ、リアルのサクラの性格、とかはともかく・・・

リアルのサクラの全てを知った上での宣言ではないし・・・強固な覚悟がある訳ではない。

この反応は当然か。


「シルビア殿・・・私は、サクラは、好ましい人物だと思います。それに・・・この世界での魂の容貌ありようと、あっちの世界リアル・・・分けて考えて良いと思います。私なんて、この世界にしか実在しませんしね」

「ご主人様、格好良いです」

「アポカリプスは今の言葉を深く胸に刻み込んだうさぁ」


ロリア、オトメ、アポカリプスの反応。

アポカリプスは、肯定してくれてるんだよな?


「まだレイなら良いが・・・サクラかあ・・・」


女神様は再度繰り返すと、


「キミの強い意志は分かったよ。これ以上は触れるまい」


女神様はそう告げた。


--


ピ・・・


壁に、緑色の光が走る。


研究施設型のダンジョン。


不気味な形の魔物、割れたガラスケース、床に散らばる謎の液体やガラス・・・

壊れかけた照明が、周囲の地形を照らす。

甘い臭いが漂うが・・・これ、毒耐性の判定が必要なのだろうか。


「ますたあ、付き合って貰って有り難うございますぅ」


「いや、俺も新しいダンジョンを調べるのは好きだ」


エレノアと、2人でダンジョン探索に来ている。

・・・まあ、正確には、オトメとアポカリプスも連れているのだけど。

アポカリプスは、俺の頭の上だ。


ギ・・・


奇形の頭をした人型の魔物が出現。


ヒュッ


ロリアが魔装化した鞭で、魔物を一撃のもとに屠る。


「名前の判別ができない魔物・・・またですねぇ。このダンジョンの世界観に合わせているのでしょうか」


エレノアが、興味深そうに見る。


ゲームの世界観に興味。

こう言ってしまえば、感性溢れる人物だが。


実際、こういったダンジョンは、女神様が過去に造り、滅びた(滅ぼした?)世界を流用している事が有るので。

純粋に、別世界の歴史を追う事だったりもする。

無論、このダンジョンがそういうものとは限らないが。


「あ、日記ですねぇ」


エレノアが、しゃがみ込み、日記?を手に取る。

液体が所々染みこみ、読めなくなっているが・・・確かに、文字がびっしりと書かれている。

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