第11話 名前を呼んではならないアレ

スマホから、ロリアの声がする。


「ついてきてしまった様ですね。ミミックだからでしょうか?」


スマホの待ち受けキャラの様に、ロリアがてちてち歩いている。

・・・何というか。

まあ、意外と便利かも知れない。


「この、夢守ゆめもり供子そなたって方は誰でしょうか?女性の様ですが」


「何故電話帳を漁る?!」


「え・・・えっと、電話がかかってきて、出られない時などに、代わりに対応を」


「せんでいい」


「少しメッセージ履歴を遡りましたが、仕事の上司の様ですね」


「メッセージ履歴も読まなくて良い!」


「そうですか?ネットで少し調べてみたのですが、既読スルーというのはマナー違反の様ですが」


「何で既にネットを使いこなしてるんだ?!」


まあ、それは便利かも知れないが。


「・・・とにかく、寝る。明日も仕事だ」


ご飯は、ゲーム内で済ませてきた。

あとはもう、寝るだけだ。


--


ピピピ・・・ブルルルッ


スマホの目覚ましの音で目を覚ます。

目を開けると同時にスマホのアラームは止まり、


「おはようございます、ご主人殿」


ロリアの声。

外でうっかり、カギロイとか、ましてやシルビアなんて呼ばれたら、人生が終わる。

これなら、スマホのAIとして誤魔化せるはず。


「おはよう、ロリア」


そう言えば、アラームをセットした覚えが無い。

月曜日が祝日だったので、アラームを解除していたのだ。

ロリアが鳴らしてくれたのだろう。


「ご主人殿、通勤経路で5分の電車遅延が発生している様です。気をつけて下さい。後で出発時にも言いますが、午後から雨が降りそうです。傘が必要そうです。今週末の主要なニュースは──」


・・・ロリアって、リアルの方が優秀なんじゃないか?


--


タタン、タン、タン。


画面に目を走らせ、仕事を片付けていく。

最初はロリアが手伝ってくれて、仕事の速度が2倍になったのだが。

それはそれで仕事が足りなくなって暇になるので、今は遊んで貰っている。


(電脳世界で直接行動している私と、等速で仕事するご主人殿が異常だと思いますが・・・)


慣れだよ。


家では音声がスマホから出ていたが、直接頭に語りかける事もできるようだ。

原理は謎。


遊びって、何をやってるんだろうか。


(一通り試しましたが・・・最後の1人になったり、Seiって名前でプロの方を蹴散らしたり、1分を切る速度でクリアして動画を上げてみたり)


良く分からないが、楽しんでいる様で何より。


(今は、数字を増やすゲームをしています。ゲットとリリースのタイミングを測り、上手く行けば数字が増えます。数字が1桁増えました)


ゲームの内容が地味になったな。


「朧月くん」


上司の、夢守が自席にやってくる。


「すみません・・・取引先のミスで、連絡が遅れていた案件がありました。今メールしたのですが」


夢守が申し訳無さそうに言う。

俺のパソコンのメインデスクトップに、ファイルが徐々に作成されていく。


「明日中で構わないので、資料をまとめて欲しいです。急な割り込みになってしまってすみません」


多分、既にできたっぽい。

ロリア、原理は分からないが、周辺の電子機器を操作できるようだ。


「分かりました。でき次第送ります」


一応、目は通してからにする。


夢守が去り、メールと資料に目を通し・・・うん、良い出来だ。

送信。


「有難う、ロリア──」


がたん


俺がそう言った途端、周囲に座っていた社員が、音をたてる。


ざわ・・・


どよ・・・


落ち着かない様子になる。


こほん


部下が、咎める様な顔で非難する。


「朧月さん。名前を呼んではならないアレを、口にしては駄目ですよ」


「あ、ああ。悪い」


ロリア。

裁きの魔王。

10年前、人類の大半を殺した存在・・・

その名前を聞く事すら、恐怖を呼び起こす。


ある者は親を失い。

ある者は伴侶を失い。

子を失った者もいる。


若い世代は、恐怖が薄れた者もいるが。

就労世代は、その記憶が色濃い。


(ほ、本望・・・恐れられるのは・・・本望・・・)


ロリアが、言い聞かせる様に繰り返す。

本気マジで済まん・・・


ビッ


不意に、アラームが鳴り響く。

これは・・・


「侵入者?!」


青い光が灯っている・・・

物理的では無く、情報領域か!

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