第92話 最大レベルの警戒
「せいっ、は!せいっ、は!」
数千に及ぶ剣士が、剣を振る。
素振りだ。
ミストが、目を走らせる。
「そこっ、形が悪い!言われたとおりにしろ!」
「そこ、もっと魂を込めて!」
次々に指導を飛ばす。
基礎訓練だ。
アイリスも混じりたいかも知れない。
こっそり隠れ、訓練の様子を見学している。
『訓練なんか見ても仕方がないでしょう?それよりさっき、もっと興味深いものが』
『俺は何も見てない』
お偉いさんが、NPCを━━プレイヤーかも知れないけど━━色々してる現場に遭遇したのだが、見ない事にした。
きりがない。
カッカッ
剣士達が組み手を始めた。
他に、集団演習や、魔物討伐演習兼経験値稼ぎ、色々手広くやるようだ。
安全に、効率良く、レベル上げ。
ミストのもとを離れ、魔道士ギルドに。
フェル指導のもと、魔力を練る訓練や、高速詠唱の訓練、魔力放出で負荷をかけ魔力容量を増やす訓練・・・色々だ。
あれがリリックさんかな?
結構美人だ。
「リリック」
フェルが低い声で言う。
「はい?」
魔道士達に指導していたリリックが、フェルの方を向く。
「今、シルビアに色目を使ったわね」
「誰ですか?!」
リリックさんがびっくりして叫ぶ。
ちら・・・今まで指導してた魔道士に視線を送る。
貴方の名前がシルビアか、と。
魔道士がふるふる首を振る。
可哀想に。
「リリック、貴方、シルビアの同情を買って、どうしようと言うの?」
・・・ひょっとして俺の存在に気づいてる・・・?
離れよう。
アイリス、フィロ、リミアも、それぞれ、個別の訓練と演習を行っている。
演習は、ギルド個別でやる事もあれば、全体でやる事もある様だ。
イデアのギルドは、演習はない。
訓練するか、任務につくか、だ。
イデアのギルドのメンバーは、俺が直接指導する事も有る。
気配を普通にしていれば気づくが、俺が気配を断つと分からない者が多い・・・イデアを含め。
カゲなら、むしろ俺が気づかない事もあるので、カゲが実力的に1番なのかもしれない。
俺の所に配属された当初は、レベル1だったのだが。
んー。
演習、した方が良いのかな?
--
演習、考えるのも面倒なので、小さな砦を攻めることにした。
勿論、演習なので、危なくなったら逃げる様に指示。
被害ゼロでは無いだろうけど。
「壱から拾は右翼、睦月から水無月が左翼、文月から師走は裏手より、松竹梅は俺達につけ」
実戦部隊は、12人1組。
ほぼ全員UR装備、松はLR持ちもいる。
俺の言葉を、カゲが伝達。
さて、俺達は囮。
せいぜい派手に暴れるか。
まずは騒いで、門を開けさせる。
「うさぁ」
・・・1番インパクトがないルナナが行ってしまった。
まあ、可愛さで釣れ。
コウッ
光が降り注ぎ、城門が衛兵ごと消失。
吹き上がるドロップ。
「な・・・何だ?!」
どよめきが起きる。
「にゃ、にゃーん」
「??!」
バスレトが猫のフリで誤魔化そうとするが、実際に城門溶けてるのに誤魔化せる訳が無い。
魔族兵達が、混乱しながらも1部が出てくる。
大部分は篭城・・・
これでは囮にならないな。
「もふもふだ、もふもふを確認した。警戒を、警戒レベルを最大に」
伝令が叫ぶ。
え、もふもふ苦手なの?
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