第81話 初体験
「スレイが死亡しました」
月花が繰り返す。
「・・・何で?」
ミストが呻く。
「私も確認しました。スレイ、及び、護衛についていた遊魚のメンバーが2人、そして、ミストのギルドのレレア、ウリムラが死にました」
カゲが乾いた声音で言う。
「護衛の静止を聞かず、護衛対象が勝手な行動を。レベル百万のドラゴンを呼び寄せ。護衛対象を逃がす為にしんがりを務めたメンバーが死亡。良く有る事です」
月花が告げる。
・・・
良く有る?
死ぬ・・・死ぬって何だ?
「スレイは・・・もうゲーム出来ないって事・・・か?」
「シルビア?!」
俺が苦々しく言った言葉に、ミストが驚きの表情を向ける。
「そうじゃな。スレイはもうゲームはできん・・・死んだからの」
フェリオが言う。
死んだ・・・死んだ・・・死んだの・・・か?
それって。
どういう意味だ?
「だって、スレイって、一緒に遊んだんだぞ?一緒に笑ってたんだぞ?この世界を愛していたんだぞ?女神様にもきっと愛されていたんだぞ?」
「シルビア!」
ミストが俺を睨む。
「そうだよ・・・シルビア、前から、実感が薄かったよね。身近な人が死ぬのは初めてかい?」
ミストの言葉が・・・刺さる。
「私には、日常茶飯事だよ。みんな、あっさり消費される様に、死んでいくんだ。私が死地に行けと命じた事もある。大切な友人、にね。私は・・・殺人鬼だよ」
ミストが続ける。
「シルビア。この世界はね。酷い世界なんだ。女神様は、人類に試練を与え、存続を問うている・・・決して、人間を慈しむ存在じゃないんだよ。このゲームは、遊びじゃない。この世界は・・・地獄だ」
だって・・・世界は・・・
「この世界は、こんなに美しい。楽しいじゃないか。これは女神様のプレゼントなんだ。色々な楽しみ方があるだけだ・・・スレイは、きっと女神様に祝福され、今頃幸せに━━」
カッ
ミストが認識出来ない速さで、俺に切り込む。
間に割って入ったカゲの刃が、その剣を止めた。
「目を覚ませ、シルビア」
ミストは押し殺した声でそう言うと、
「君とは、2度と会わない」
そう言葉を残し、立ち去った。
俺は━━2人の友人を、永久に失った・・・そう悟った。
--
この世界は、悲しみに満ちている。
人は、為すべきことを為さねばならない。
恐らく、それは、事実。
だが。
「主よ、我に乗ったほうが楽ではないか?」
トライプニルが尋ねる。
俺は━━行動を変えなかった。
今更どこかのギルドに所属して魔王軍との戦いに参加しても・・・役立てる気がしない。
むしろ、面倒な奴に目を付けられ、無駄に消費させられる・・・そう思う。
分かっている。
これは逃げだ。
それでも、俺はこれまで通りすごす事にした。
俺1人が参戦しようが、すまいが、大局は変わらない。
むしろ、レア武具を流通させたり、情報収集する方が、役立つ筈だ。
それはこれまで通りの考えで。
でも、分かってしまった。
これは、逃げだ。
今、ただ歩くのが好き、という理由で、トライプニルの申し出を拒否した。
これも、ただの我儘だ。
そう、俺は、変えなかった。
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