第64話 回避スキル向上

「何が何でも、トップギルドになってやるんだからっ!」


フェルが叫ぶ。

ん?


「待て、フェル」


確か・・・


「魔法使い職の強さ底上げの為、育成支援や情報共有をして、魔王軍に対抗する・・・そういうコンセプトだったよな?」


「そうよ?」


フェルが不思議そうに小首を傾げる。


「じゃあ、トップギルドになる必要ないよな?」


「何でよ?」


あれ?


「トップギルドじゃないと、人が集まらないのよ。前衛職とか、なかなか勧誘するの大変だったんだから」


・・・?


「何で前衛職がフェルのギルドに入るんだ?」


「え?」


・・・


「フェル」


「な、何よ」


「妹さんと、リリックさんに任せておけ」


「何でよ?!」


フェルの叫び声が響き渡った。

ギルドコンセプト、大事。


--


ガサ・・・


おっと、音を立ててしまった。


此処は水の都、ユニコニア、北の森。

ユニコニアは、北を大森林、南を海に面した都市。

東西を街道が通っている。


北と西を魔王領と接し、西に砦を造って警戒している。


防衛の様子を見ようと、俺も見学に来たのだ。

正式にクエストは受注していない。


北の森からの侵攻、まず考えられないが・・・

暇なので、偵察してみる事にした。

待っているのに飽きた、とも言う。


木々を飛び移り、探索・・・はっ。


ヒュン


俺が投げた布が、人影に纏わりつく。


「誰だ?!」


もがく人影。


「それはこちらの台詞だ。此処は進軍予定ルートから外れているとは言え、危険地帯。入浴なら街の施設や、内地に行け」


俺は呆れて、言い放つ。


布から顔を出したのは、美しい女性。

濡れた緑色の美しい髪、凛々しいと言うよりは可愛らしい顔立ち。


まあ、美女は見慣れているので、どうと言うことは無いのだけど。


因みに、投げたのは[UR]天女の羽衣。

本来は結構強力な装備なのだが、余っているので目隠しに投げる事にしている。

上手く身体を隠してくれるのだ。

・・・女性の集団と暮らしていると、どうしてもトラブルに巻き込まれる機会が多いので、自衛策だ。


「此処が危険なのは分かっている。キミこそ、危ないから立ち去りなさい」


よほど腕に自信が有るのだろうか?

強そうには見えないのだが。


流石に水浴びを続ける気にはならないようだ。

さっさと着替えると、俺の側に来て、


「今見たものは忘れろ」


そう告げる。


「見てないぞ。見る前に条件反射でソレを投げたからな・・・ソレ、返してくれると有り難い」


女性は羽衣を自分の荷袋に仕舞うと(おい)、俺を睨み、


「違う。私の顔や、その・・・とにかく、忘れろ」


いや、お前誰だよ。

忘れろも何も、いちいち覚えないよ。

腕に自信のある勇者様で、正体を隠しているとかだろうか?


ああ、性別を隠している、とかかも知れない。

服を着ていると、男性にしか見えないが、本当は女性、と。


「約束しよう。俺はあんたの事を忘れよう」


覚える気が無いからな。


・・・あれ・・・?

赤い顔でぷるぷる震えている。

怒っている・・・?


おかしいな・・・

信用されていないのだろうか?


「本当だぞ。俺はあんたに欠片も興味が無いし、あんたに会った事すら忘れても良い。信じてくれ」


・・・あれ?


「お前・・・もっとこう・・・何か無いのか?!そもそも、何で最初から手慣れた様子で覗き見イベントを回避するんだ!」


慣れてるからだよ。

ややこしい事にならない様に立ち回っている筈が、どんどんややこしくなってる気がする。


立ち去るか・・・?

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