第42話 乱されし平穏
「エリア解放は、エリアボス討伐以外でも解放出来るので・・・1階層最奥の守護システムを倒す、最上階の魔導師を倒す、地下の制御室で男女が手を取り合って特定の言葉を口にする、等ですね」
月花が補足する。
最後の奴、何だ?
まあ、状況は分かった。
俺はみんなを見回すと、静かに頷いた。
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「風がこう通るので・・・此処に穴を開けて・・・」
フィロの指示の下、雲石が積み重ねられる。
フィールドに落ちている石で、両拳を合わせた位の大きさ。
軽く、丈夫だ。
カロ、カロ
積み重ねると、擦れ、澄んだ音がする。
キン・・・キキン
リミアが、雲枝を運んで来た。
白い半透明の枝で、強く、穏やかに、長く燃えるらしい。
「獲ってきたよ」
ミストが運んできたのは、空魚。
レベルが低い魔物では無いけれど、ミストとっては雑魚だ。
「そこに積んでおいてよ」
アイリスが指示。
アイリスは、獲物の下ごしらえを見事な手際で進めている。
「点火するわよ」
雲枝は、1度火が点くと長く燃える・・・が、簡単には燃えない。
だが、フェルには容易い。
ぼっ
優しい火が灯った。
火力はかなり高いらしい。
アイリスが、テキパキと串に刺した具材を火にかける。
天龍って美味しいの?
みんなで火を囲み、雑談。
「アイリスって、料理上手なんだな」
俺が言うと、
「僕は家元だからね。華道に料理に音楽、書道に戦車、色々やってるよ」
戦車?
「・・・剣士、じゃなかったっけ・・・由緒正しい家柄なのかな」
「元は武士らしいね。一応、それなりのお嬢様だよ」
お金持ちなのかあ。
「はーい、私は妹と一緒に会社経営してるわよ!お金持ちよ。社長よ」
フェル。
「妹さんが1人でやってて、フェルが時々邪魔する奴だっけ」
「ちょ、酷くない?!違うからね。ほとんど私で成り立ってる事業だからね??!」
フェルががくがく揺らしてくる。
あれ?
「私の家は、サービス業をしています。家事手伝い、です」
イデア。
「家事手伝いかあ・・・そう言えば、時々掃除代行業者に頼むんだけど、かなり便利だよな」
正直、家に他人を入れるのは嫌なのだが、背に腹は代えられない。
掃除は苦手なのだ。
「ふーん、シルビア、掃除代行業者とか利用するのね。良かったら私が掃除しようか?」
フェル。
「逆に散らかりそうだから遠慮する」
「酷くない?!」
多分、事実。
「フェルに掃除を頼むと、色々燃やされそう」
ミスト。
「リアルでは魔法使えないわよ?!」
フェルが叫ぶ。
「僕で良ければ、掃除洗濯料理・・・住み込みで働こうか?」
アイリスが微笑みながら言う。
「・・・アイリスは優秀そうだが、手間取らせると悪いからな。今は業者のお姉さん頼りだな。早いし。・・・それに、キャンペーンで1年間無料パス貰ったから」
「おや、そんなのがあるんだね」
「無くなっても、利用し続けるとは思う。地域決まっているのか、何時も同じお姉さんが来る・・・慣れているので有難い」
「まだ利用者が少ないのかな」
フィロが言う。
「そう言えば・・・俺がこうやってゲームしている間、お姉さん仕事どうしてるんだろうな。他にお客いるのかな?」
「ゲームでもしてるんだと思います。問題有りません」
何故か自信満々に答えるイデア。
何故。
魚や蛸が美味しいのは当然として。
天龍が美味い。
味付けも絶妙だ。
「・・・月花が料理するより美味しい気がするな」
ぺしり
月花にはたかれる。
アイリスはくすりと笑うと、
「みんなで料理したから、だよ。月花の料理は、凄く美味しいよ」
「なるほど・・・」
イデアが、雲豆のコーヒーを入れてくれる。
一口飲み・・・
「美味い」
くす
みんな、誰からともなく、笑う。
平和だ。
「・・・で、現実逃避は済みましたか?」
月花の無粋な呟きが、染み渡った。
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