19

 朝、起きて身支度を調えると、みんなが集まる場所に向かう。

 台所やテーブルを設置している場所で、リビングのような感覚で集まる場所だ。

 到着すると、そこには元の姿に戻っている三人の姿があった。


「お、コハネ。おはよう!」

「はよー!」

「おはよう」


 リック、リュシー、クレールが挨拶をしてくれた。

 ああっ、三人のキラキラオーラがまぶしいっ!

 顔面偏差値が高い人たちの笑顔は朝陽に勝る、ということを知りました。

 三人でこの破壊力だから、五人の呪いが解けたら私の目が潰れるかもしれない。


「エドとパトリスは?」

「多分、水浴びだと思うよ。いつも行っている副団長に、団長もついていったんじゃないかなあ」

「あはは、コハネに臭えって言われたの気にしているんじゃないか?」

「ええっ!?」


 臭いなんて……思いっきり言ってしまった。


「水浴びにいったのなら私もついて行って、エドを洗いたかった……」


 あのモフモフを洗うと、とても心が癒やされる。


「副団長も洗ってあげなよ」

「パトリスは綺麗好きでしょう? あの翼は魅力的だけれど……!」


 綺麗好きのパトリスの桃色の翼は、艶々の所とふわふわのところがある。

 触りたい! と思っているけれど、パトリスには頼めない。

 無表情の中に潜んだ笑顔に怯んでしまう。

 いつかきっと……元の姿に戻るまでに頼みたい!


「あ、リュシー。そうやって毛布をマントにするの、気に入ったんだね」

「うん」


 リュシーはまたヒーローのマントのように毛布を巻いていた。

 長い間この聖域で生きてきたのだから、確実にリュシーの方が何倍も年上だ。

 でも、弟のように思えて可愛がりたくなる。


「クレール。服、似合っているね」

「…………」


 プイッと顔をそらされたが、照れ隠しの行動だと分かっている。

 クレールには、ポケットに入っていたセインのシャツとズボンを渡した。

 セインのものは全て黒だ。

 地味というより不気味だと思っていたセインの服は、クレールが着るとすごくかっこよく見えた。

 モデルが違うとこうも違うのね!


 リックとリュシーもそうだけれど、もっと色んな服を着て欲しい。

 裁縫道具があるから、ポケットにある服や布を使ってみんなの服を作ろうかな。


「あ! そういえば装備品は持っているわ」

「え……装備!?」

「武器や防具があるのか!?」

「!」


 私が零した言葉に、三人が食いついてきた。


「う、うん……見たい?」

「「「見たい」」」


 装備は騎士にとっては商売道具のようなものだから、興味が沸くのは当然なのかもしれない。


「結構な数があるよ?」


 何かあったときのために、良品を見つけては購入し、ポケットに放り込んでいた。

 私が使うものもあるが、ほとんどがアーロン様やセイン、騎士たちが使うものだ。


「全部! 全部見せてくれ!」

「お願い、コハネ!」

「頼む」

「う、うん。分かった。待ってね?」


 三人はとても興奮しているようで、私を取り囲む圧が凄い。

 取り出したものを置ける広い場所に移動し、ポケットから手当たり次第に出していく。


「これとー」

「「「おお!」」」

「これとー」

「「「おおお!」」」

「あ、こんなのもある」

「「「おおおお!」」」


 三人の目がおもちゃを買って貰える子供のようになっている。

 その様子がなんだか可愛い。


「好きなだけ使って。私は使えないからあげるよ」

「ありがとう! おれは武器と防具が一通りあればいい」

「僕も」

「俺もだ」

「そう? 必要になったら言ってね」


 あんなに欲しがっていたのに、欲張らないなんて凄い。

 確かに、使わないものがたくさんあっても邪魔か。

 私がポケットに入れて持っていた方がどこでも取り出せるし、便利かもしれない。

 壊れたり、また必要になった時に渡そうと思う。


「あ、団長! 副団長!」


 三人が選び終わったところで、水浴びをしに行っていたエドとパトリスが帰って来た。


「コハネに装備をもらいました!」


 リックが選んだ武器を嬉しそうに見せると、エドとパトリスも駆け寄ってきた。

 二人も武器に興味があるみたい。


「まったく錆びがない剣だあ!」

「この感覚、懐かしいな」

「剣を握ったのは久しぶりだ……」


 剣を手に取り、ジーンとしているリ三人の横で、エドとパトリスは並べている武器を見始めた。


「よかったら、二人もどうぞ」

「ヒュルー」

「グルッ」

「元の姿に戻ってからでいい? いや、せっかくだから選んで飾っておきましょうよ!」

「そうですよ!」


 リックとリュシーの言葉にクレールも頷く。


「ヒュー」

「グルルッ」


 三人に押され、エドとパトリスが装備を選んだ。

 エドは大きめの剣で、パトリスが選んだのが少し変わった剣だった。


「パトリスは魔法剣がいいの?」

「副団長は魔法が得意なんだよ」

「そうなんだ!」


 リュシーの言葉にパトリスが頷く。

 私も魔法はよく使うから、パトリスが元の姿に戻ったら教えて貰いたい。


「ねえ、装備を選んだついでに、エドとパトリスが話せるようになるところまで解呪しない? どうかな、エド。パトリス」


 私に聞かれ、エドとパトリスは顔を見合わせていたが、二人揃って頷いてくれた。


 二人の呪いは、今までの三人に比べて厄介だ。

 段階的に解呪していくが、元の姿に戻るまでに何回解呪が必要か分からない。

 今から行う解呪で話せるようになるとは思うけれど……とにかくやってみよう。


 まずはパトリスからだ。

 向かい合って立ち、翼を掴む。

 魔力を繋げ、段階的に呪いを消す。

 うーん……やっぱり解呪が思うように進まない。

 クレールのときとはまったく違う。

 でも、目的は達成できたはずだ。

 解呪をとめ、パトリスの様子を伺う。


「……どう?」

「ありがとうございます、コハネ。喉のあたりがスッキリしました」


 パトリスから聞こえてきたのは、はっきりとした言葉を発する穏やかな声だった。


「よかった……。パトリスって優しい声なのね」

「コハネ、副団長の見せかけのおっとりに騙されちゃいけないぞ」

「セドリック」

「はい!」


 パトリスに名前を呼ばれ、リックが気をつけ! をするように姿勢を正した。

 そんなにビシッとしてしまうなんて、パトリスは怖い先生のような存在なのかな?

 ジーッとパトリスを見ていると、目が合った。


「では、団長のこともお願いしますね」

「も、もちろん、任せて!」


 見えない圧を感じたような……?

 パトリスがみんなにとってどんな存在か、深く追及するのはやめよう。


「じゃあ、エド」


 解呪が成功して、もうすぐエドの声が聞けると思うと、なんだかドキドキする。


 立っている私の前に座ったエドが、『お手』をするように前足を出してくれた。

 可愛いっ……って、今はきゅんとしている場合じゃなかった。


 魔力を繋げてエドの呪いも解いていく。

 エドの呪いは一番厄介で、総て解くのは大変だろう。

 さっきのパトリスよりも、さらに解呪の進みが悪い。

 でも、失敗はしたくない。

 集中して解呪していくと、なんとか話せるようになる段階まで解呪することができた……よね?

 思ったように進めることができなかったので不安だ。


「……コハネ」

「!」


 ちゃんと話さるところまで解呪できていた……エドの声だ……!

 綺麗な蒼い目と同じように凛とした声だ。

 これがエドの本当の声なんだ……。


「自分の声を忘れてしまう前に聞けてよかった」

「!」


 クスリと笑いながら、話す声にドキリとする。

 エドは普通に話しているだけなのに、聞いているとなんだか緊張してくる!


「団長が忘れても、おれたちは忘れたくても忘れられませんよ」

「セドリック、どういう意味だ?」

「なんでもありません!」


 リック……パトリスにも注意されたのに、懲りていないな。

 おかげで妙な緊張がとれてよかった、ありがとう!




 今日の私の予定は、昨日とりきれなかった野菜の収穫だ。

 昨日に引き続き、大工仕事の方はリック、エド、パトリスが行っている。


 元々畑仕事が大好きなクレールは、すごい速さで収穫した野菜の山を作っていく。

 それをポケットに入れていくのは私の作業だ。


「さあ、どんどん入れちゃおう。……うん?」


 じゃがいもの山をポケットに詰め込んでいると、何か聞こえた気がした。

 気のせいだろうか。


 ……コハ…………でて……さいよ!


「?」


 女の人の声?


「コハネ? どうした?」

「あ、クレール! えっと、気のせいかもしれないんだけれど……女の人の声が聞こえない?」

「女の声?」


 二人で耳を澄ませる。


 …………出て…………コ……ネ!


「「!」」


 クレールと顔を見合わせる。

 やはり聞こえた!


「森の奥から?」

「悪というより……聖域の外からじゃないか?」

「外から?」


――コハネ! 聖域から出てきなさい!


「あっ!」


 今度ははっきり聞こえた、その声は……。


「え……ダイアナ?」

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