奪われ聖女と呪われ騎士団の聖域引き篭もりスローライフ

花果唯

1章

プロローグ

 暗い森の中を駆け抜ける。

 足が痛いけれど、気にしてはいられない。


「どうしてこの世界のためにがんばった私が、こんな目にあわないといけないの!」


 多分、私は嵌められたのだ。

 後輩聖女である、あの子に――。


 可愛らしくていい子だと思っていた。

 友達だと思っていたのに……!


 悲しみと怒りで泣きたくなったけれど、今はとにかく走り続けないといけない。

 泣くのはあとでもできる!


 王都からそう離れていない位置にある、この森は『聖域』だ。

 かつて国を魔獣から守ったけれど、呪いを受けて醜い魔物の姿になってしまった騎士達が眠っている、という伝説がある。

 かれらの眠りを妨げないよう、森には侵入を阻む結界が張られているらしい。

 唯一、聖女だけが足を踏み入れることができるといわれているが、その真偽は定かではない。


 日本――異世界から召喚され、聖女となった私は入ることができた。

 でも、伝説は嘘で、私を追っている騎士達も侵入できたかもしれない。

 念のため、少しでも遠くへ逃げないと……!




 暗い闇夜をどれだけ進んだのか分からない。


「ハッ……ハッ……あっ!」


 必死に走り続けてきたが、足がもつれて転んでしまった。


「うっ……。はあ……もう無理……」


 痛みと疲れで起き上がることができない。

 地面に顔をつけたままなのは嫌だ。

 力を振り絞り、なんとか仰向けになった。

 荒い呼吸は一向に整う気配はないし、目も開けていられない。


「アーロン様の馬鹿……」


 婚約者である私ではなく、後輩聖女を信じた王子の顔が浮かび、再び涙が込み上げてきた。


「こんな世界、大嫌いよ」


 縁もゆかりもないこの世界に尽くした結果がこの仕打ち。

 神様がいるなら訴えてやる。


 怒りは増していくのに、意識が遠のいていく――。


 ああ、これから私はどうなっちゃうんだろうう……。




「グオッ?」


 …………え?


 ……今の声は……魔物!?

 魔物がいるなんて、ここは聖女だけが入ることができる聖域じゃなかったの!?

 やっぱり伝説なんて嘘だった!?


 飛び起きようとしたが、身体が思うように動かない。

 頭も働かず、意識が途切れていくのを止められない。

 かろうじて動くことが出来たまぶたを開けると、そこにいたのは……。


「…………!?」


 魔物ではなかったが……魔物以上に破壊力のある光景だった。


 私を囲うように立ち、見下ろしているのは白銀の鎧をまとった五人の美男子だった。


 茶色の髪に緑の瞳の快活そうなイケメン。

 赤色の髪に橙の瞳の目つきが鋭い美形。

 水色の髪に灰色の瞳の透明感のある美少年。

 桃色の髪に菫色の瞳の妖艶な麗人。

 そして、この美形揃いの中でも一番目を惹くのは、輝くような金色の髪に蒼い瞳の美青年だった。


 もしかして…………あなた達は死に神?


 これだけ美形だと逝ってもいいかな、と思ってしまう。

 残念なのは……。


「バウバウバウ!」

「ギギギギッ」

「プ! プッ、ピッ!」

「ヒュルーンヒュウー」

「グルルルルッ」


 イケメン達の声が何故か汚い。

 残念すぎる!

 というか、何を言っているか全く分からない……。

 魔物のような声だ。

 死に神語なのかな?


(声までイケメンであって欲しかった――)


 そんなことを考えながら、私は意識を手放した。

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