第2話『俺と彼女が極寒の中で』

 よし、さすが俺。学園でもトップクラスの美少女でありながら、これまで星の数の有象無象どもを片っ端から振りまくった堅物ちゃんも、俺の魅力ではこの有り様よ。いやぁ、本当の良い男はつらいねぇ……。


 なんて思いながら、華奢だが出るところは出ている八重垣を俺は更に強く抱き締めた。


「人の温もりは温かいな……」


 おいおい、そんな弱々しい声を出すなよ。いつもの強気の方がかわいいぜ……。


 せっかくのチャンスだってのに、なんだか気が乗らねぇってつーか、萎えちまった……。

 なんつうか、人の弱味に突け込んでる感が半端ねぇ。


「そうだな……」


 だから俺は、そんな事を言いながら八重垣の髪を撫でた。


 なに? ヘタレだぁ?

 分かってねぇなぁ。超良い男ってのはよぉ、その場の状況に流されねぇんだよ。


 とは言っても、このままってわけにはいかねぇ。俺も八重垣も、体温を奪われて二人仲良くあの世行きよ。

 なんとかならねぇもんかと、俺は八重樫を冷やさないようにしながら辺りを見回した。


 余程寒いのがダメなのか、それとも諦めちまったのか、沈着冷静な八重樫が、体を震わせて俺に抱き着いたまま、脱出する方法を考えようともしないのは、少し意外だ。


「すまないな……。私は極度の冷え性なんだ。冬は学校も父の運転手に学校まで送ってもらっている」


 俺が何を思っていたのか、悟ったように八重樫が、消え入りか細い声で囁いた。


「叶うことなら、お前の身ぐるみを剥いで、この上に着たいくらいだ」


 最後に恐ろしいことを付け加えた。


「おいおい、んな事されたら、俺は凍死しちまうだろうがよ……」


「だからやらないだろう?」


 本気で俺の服を奪いたいらしく、俺の抗議に八重垣は不機嫌そうに言い放った。


 怒るところかよ。と内心で突っ込みながら、部屋の片隅にあるロッカーがあるのを見つけた。


「お、なぁ、あん中に防寒着くらいあるんじゃねぇか? 見に行こうぜ?」


「うん……?」


 俺がロッカーの存在を教えてやると、八重垣が俺の胸に埋めていた顔を上げて、ロッカーを見た。


「防寒着か。良い響きのある言葉だな。よし、見に行こう」


 真っ先にロッカーに行くと思ったが、俺が甘かった。

 一時も離れたくないのか、八重垣は俺に抱き着いたままで早く行けとばかりに促してきやがる。


 いいんだけどよぉ、そんなにひっついて俺の理性が吹っ飛んじまったら、どうするつもりなんだろうな?


 まぁ、こうしていても埒が明かねぇ。まるで恋人同士のように、俺と八重樫は寄り添いながらロッカーへ向かった。

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