百合と私と貴女の恋 あとハンバーガー
秋田川緑
ガールズラブって、そんなのあり?
第1章 貴方と私とラブレター
第1話 ガールズラブは突然に
『
突然のお手紙ごめんなさい。
覚えていますでしょうか?
私は1年C組の
先輩は、入学式の日にボーっと歩いて迷子になってしまった私に声をかけてくれて、体育館に案内してくれました。
不安で、泣きそうになっている私にハンカチを渡してくれて、いつ返そうかと思っていましたが、勇気もなくてずっと持ち歩いています。
先輩。
私は、先輩に優しくしてもらってから、ずっと、先輩のことを見てました。
私は女の子ですが、こんな気持ちになったのが始めてで、毎日、毎日、先輩の姿を見かけるたびに、胸が苦しいです。
私の初恋です。
先輩のことが好きです。
女の子同士なんて、普通じゃないなんて思うかもしれませんが、この気持ちは本当です。
もし良かったら、お付き合いをしていただけませんか?
どんなお返事でも大丈夫です。
よろしくお願いします。』
――――――――――
☆
その手紙を私がもらったのは、夏休みが終わってすぐ。
始業式で午後の授業も無く、お昼は帰りにハンバーガーでも買って帰ろうかななんて思っていた放課後のことだった。
「おーい、高田ー! 呼び出しだぞー!」
教室の入り口で、ひょうきん者の荒井が私を見てニヤニヤ笑ってる。
友達のエリも私を茶化して言って来た。
「なになに? キー子、なんかやったの?」
呼び出しを食らうような何かをやらかしてしまったのか、なんて少しだけ心配になったけど、やっぱり心当たりは無い。
で、何者が私を呼び出したのだろうと廊下に出たら、待っていたのは小さな女の子だった。
「あの、高田先輩。お話があります。ちょっと来てくれませんか?」
もちろん、何の用事かなんて見当もつかない。
その女の子は一言で言うと、可憐。
なんだか顔を真っ赤にしていた。
髪にリボンなんか着けちゃって、なんだか可愛い。
「良いよ。オッケー」
私は軽い感じで誘いを受けた。
「あ、ありがとうございます!」
女の子はパッと顔を輝かせる。
可愛いなーって、また思った。
いや、可愛いけど、何の用事だろう。
とりあえず、私はその子の誘うがままに歩いてみたけど、下駄箱で靴を履き替え、誘われた道筋を見るに、目的地は体育館裏のようだった。
……
……体育館の裏、だと?
歩いていたら到着したし、間違いない。
そこは、体育館の裏だった。
いや、待てよ?
ここが我が母校における不良の果し合いで有名な、あの体育館裏だと考えるのは早計過ぎる。
正直、ボーっと歩いてたし。
横にある建物は体育館に似ているかもしれないけれど、よく似た別の建物かもしれないし。
念のため、私は女の子に聞いてみた。
「ここは、どこ?」
「体育館の裏です」
私は警戒した。
見渡せば人の気配が全く無く、さらには、助けを呼ぶ声がどこにも届かないような雰囲気がある。
間違いない。
ここは、体育館の裏だ。
まさか、これは、何かの復讐なのか?
こんな人気の無いところに誘い込んで、私を襲うつもりなのか?
あふれ出る危機感に私は慄く。
だが、内心、私はこの大胆不敵な挑戦を見事と思えて仕方が無かった。
フン! いいだろう、相手になってやる。
私、こう見えても腕立て伏せ5回は出来るんだぜ。
私を相手にしたことを後悔するが良い!
とは言え開幕から暴力で応じるのはあまりにも品が無い。
「で、お話ってなんでしょう?」
私はすました顔で言った。
そう言ってから不自然に丁寧だったかな、なんて思ったけど、関係無い。
ふふふ、分かってるよ。
どんな文句で戦いを始めるのだ?
さぁ、言ってみろ。そして、私を満足させてみろ。
……ちなみに弁解しとくけど、この子の背が小さくてケンカしても勝てそうだから強気になってるわけじゃないんだからねっ!
一応。
「あの、その」
私のそんな自信満々さに当てられたのか、女の子はたじろいだ。
むむ?
何だと言うのだ、このリアクションは。
まさか、私の殺気とか、闘志とか、そう言うファイティングパワーを感じとったのだろうか。
だとすると……この子、可愛いだけじゃないな。
油断しないほうが良いのかもしれない。
私は半歩下がり、咄嗟に動けるよう、全身の力を少しだけ抜いた。
足はやや内また。
弟のマンガで読んだ、拳法の達人も取ると言う、猫足立ちの構え。
良し!
来るなら、来い! 相手になってやる!
なんてヤル気にはなったのだけれど、正直、お腹が空いてた。
会話で済むならそれが一番だとも思う。
争いは何も生まないのだ。
今の私は、早くこれを終わらせてチーズバーガーが食べたいと思っている。
「あのさ、私、恨みを買うようなことしたかな?」
私はそう聞いてみた。
相手は、少しだけ驚いたような表情をして私に言う。
「え? 恨み、ですか?」
「違うの? 仕返しするのに、こんなに人気の無いところに呼んだんでしょ?」
「違います」
女の子が少しふてくされた様に、それでもどこか悲しげに言った。
なんだか思惑が外れてしまった。
そして始まった沈黙。
お互いに、無言。
静けさで胃が痛い。
早くチーズバーガー食べたい。
よし、今日はポテトもつけよう。
「じゃあ、何の用事なのかな? かな?」
沈黙を打破しなくてはと力みすぎて、思わず、かな? を二回も言ってしまったけれど、特に意味は無い。
「えと、その」
意味は無いはずだったのだけれど、女の子が再びたじろいだ。
かな? の二回重ねは威圧の効果があったみたいだけれど、それは私の意図していないことだ。
煽ってるみたいになってたし、反省。
「大丈夫だよ。落ち着いて話してみて? ちゃんと聞くから、ね?」
私は優しく微笑みかけてみた。
女の子は、ハッとしたように、そして何か嬉しいことでも思い出したようにして、私に言った。
「先輩。私、1年C組の、
女の子の大きな目がウルウル。そして、小さな肩はフルフル。
そして、女の子は懐に手を入れて、爆弾を取り出した。
いや、本当は爆弾ではないのだけれど、むしろ爆弾の方が数倍マシだったわけで。
「お、お手紙読んでください! 私、せ、先輩の事が好きで! お、お返事、待ってますから」
女の子はそれだけを言うと走って行ってしまった。
一体なんなのだと、その時は思った。
好きってなんだって、その時は思った。
いやいや照れるなー。私は人気者だなー。なんて、その時は思った。
ハンバーガーショップでレジに並んだ時は、チーズバーガーにポテト、コーラのセットにしようと思っていた。
あ、弟の分も買わなくちゃな、なんて、思っていた。
だが、もちろん、お目当てのセットを買い、家でコーラを飲みながら手渡された手紙を読んだ時は、それどころじゃなかった。
口から吹き出してしまったコーラは、照り焼きバーガーを頬張っていた弟を直撃し、掃除が大変だった。
怒った弟をなだめるのにも苦労した。
手紙が汚れなかったのは奇跡と言えよう。
って言うか、こんな冴えない私がガールズラブって、そんなのあり?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます