Ⅳ‐ ③
そんなことがあったなどと露知らぬ俺たちは、「なにかあったのか?」とヤスオ君に何度もしつこく尋ねた。が、ヤスオ君はやっぱり「へへへ」と困ったように笑うだけで、なにも話してはくれなかった。
それから少し経ってからのことだ。俺たちの身辺でおかしな出来事が頻発するようになった。
最初にその被害に見舞われたのは、この俺だった。
俺たちの高校では体育の時間、生徒の携帯や財布などを貴重品袋なる物に入れ、日直が体育教師に預ける決まりになっていた。
ところが、ある日の体育の授業の後、俺は返って来た自分の携帯を見て愕然とした。俺の携帯の液晶画面が粉々に割れていたのだ。しかも、他のやつらの携帯にはなんの傷一つ付いていなかったと言うのだから、これはもう意図的に誰かが俺の携帯を破壊したとしか考えられない。俺は自分の携帯がこうなるに至った経緯を明らかにするべく、まずはその日の日直に事情聴取を敢行することとした。それは、ヤスオ君だった。
「ヤスオ君、ちょっと俺の携帯がこんなことになってるんだけど、なんか知らない?」
ヤスオ君は真っ青な顔をして、首をぶんぶん横に振った。俺もまさか、ヤスオ君がそんなことをするなんて思ってもいなかったが、一応、聞けるだけのことは聞いてみようと思った。
事情聴取の間中、ヤスオ君はいつにも増して落ち着きなくそわそわしていた。それを見ていたら、なんだか俺の方がヤスオ君に対して申し訳ないような気持ちになってしまい、早々に事情聴取を切り上げた。俺も納得したわけではなかったが、これといった証拠があるわけでもなく、事故という可能性も捨て切れなかったからだ。
しかし、その後も俺たちの身辺が穏やかになることはなく、むしろ問題はエスカレートしていく一方だった。
俺の次にはロッテの書道道具が墨汁まみれになっていたり、サコツの体操着が破れたりしていた。他にも俺たちの周りの何人かに似たようなことが起きた。こうも立て続けに色々起きるとみんな疑心暗鬼に駆られるのは当然のことで、俺たちは自分の持ち物の管理を徹底させるのはもちろんのこと、周囲への警戒も怠らなかった。とは言え、俺たちにこんなことをするやつがいるとすれば、それは「やつら」しかいないだろうという憶測もあった。
問題が起きているのは学校の中でも俺たちのクラス、俺たち四名を中心とするグループの人間だけ。他クラスのグループとは友好的な関係を築けていたし、わざわざ余所のクラスからそう何度も小出しにトラブルを持ち込む奇特なバカもおるまい。そうなれば、俺たちに不満を持ち、俺たちの動向を把握し得る俺たちの身近な人間を疑うべきだ。
そんなのは、件の西中グループの他にいない。
俺たちはやつらに疑惑の眼差しを向けつつも、表面上は平静を装っていた。そんな中、とある決定的とも言える事件が起きた。
ある日の昼休み、マシバが「体操着を忘れたから一度家に帰る」と言い出した。無論、無断外出が校則で禁じられていることなど承知の上なのだが、両親が共働きで誰かに忘れ物を届けてもらうということができないマシバも背に腹は替えられない。マシバは見送り兼監視役としてサコツを伴い、生徒玄関に向かった。そして、二人はそこで思い掛けぬ人物と遭遇した。マシバの下駄箱から靴を抜き取る、ヤスオ君と。
「ヤスオ君……?」
マシバの声に驚き、ヤスオ君は手に持っていたマシバの靴を取り落とした。ヤスオ君はこちらも同じように驚いているマシバとサコツの二人を見ると、今にも泣き出しそうな顔をして、その場から走り去ってしまった。
「待て、サコツ!」
咄嗟にヤスオ君を追って駆け出したサコツを、マシバが呼び止めた。マシバは冷静だった。マシバが素早く玄関の内と外を確認すると、はたしてそこに――玄関の外に屯す西中グループ四名の姿を見止めた。
マシバは急遽帰宅を取り止め、俺たちの元へ引き返して来た。
……その後の情報収集で、昼休みになってすぐ、西中グループ四名とヤスオ君が連れ立って歩いている姿を目撃した、という怪情報を得た俺たちは、ようやく核心に辿り着いた。
ここ最近起きている不可解な現象は、全部やつらがヤスオ君を使って行ったことだったのだ。
その日、とうとうヤスオ君はクラスに戻って来なかった。
放課後、ヤスオ君の家まで荷物を届けに行ったロッテは、翌日に俺たちと会った際、「結局、昨日ヤスオ君には会えなかった」と肩を落としながら言った。そして、その日からヤスオ君は学校にも来なくなった。
俺たちは怒った。やられた仕打ちに対してではない。なにより、あのヤスオ君を利用したことが許せなかったのだ。
みんな、今すぐにでも西中グループのやつらをボコボコにしてやりたい気分だったが、それではやつらと同じ穴の貉だ。やはり、俺たちには俺たちのやり方がある。バカを敵に回すとどうなるか――あのバカ共に思い知らせてやる!
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