『アイをツぐ者』⑤
レイリの演説は効果抜群だった。
その後、誰からともなく相崎百合香のことを口にする者はいなくなり、その代わりに「あの一年の柏原玲梨とかいうやつは何者なんだ?」という声の方が囁かれるようになり、生徒の間の関心は相崎百合香から柏原玲梨へとシフトしていった。このことは後の生徒会長選挙でもプラスに働くこととなる。
レイリの周りには次第に人が集まり、その一挙手一投足に誰もが注目した。そして、その傍らにはいつも、相崎百合香の姿があった。
相崎百合香はレイリの選挙戦でも率先して支持の獲得に動き、自らもレイリの推薦者代表として推薦スピーチをする役を買って出た。
レイリと相崎百合香の二人は、紛れもなく親友と呼べる仲だった。
だから、I組の前で上級生に絡まれている相崎百合香をレイリが身を挺して庇ったのは、至極当然のことだったのだ。
さて、宮前亜子の一件以降、俺は校内でレイリと顔を合わせるたび、やつから獲物を狙う鷹のような目つきで睨まれた。
そんな時、俺は心の中で中指を突き立てながらも、表情は努めて冷静に、モアイ像さながらの堅く引き締まった顔でやつの視線を弾くのだった。
俺とレイリの睨み合いが始まると、決まってその間に割って入ってくるやつがいた。
「まあまあまあ、二人ともそんな恐い顔すんなって。お互い仲良くやろう、な!」マシバだ。
「元はと言えば、このバカが全部悪いのよ。男のくせに、いつも逃げてばっかりの意気地なしなんだから!」
先に仕掛けてくるのは、いつもレイリの方だった。
「うるせー。俺は平和主義者なんだ。おまえみたく勝手に出しゃばって、事を荒立てるような真似はしねーんだよ」
俺だって黙っちゃいない。バカがバカを言うのは、当然、バカの務めだからだ。
「現実を正面から受け止めようとしない、卑怯者の言い訳でしょ!」
「なんでもかんでも正面から突っ込めばいいってもんじゃねーだろ。イノシシか、おまえは」
俺とレイリの言い争いは所詮ただの水掛け論でしかないので、始まった瞬間から終わりはない。
トンネルだと思ったら洞窟だった。それを反対側から無理やり穴を掘って出口を作るのがマシバの役目だ。
「抑えて、柏原さん。かわいい顔が台無しだよ? シンも、バカ言ってねーで、少しは冷静になれ!」
しかし、俺とレイリの言い争いで一番のとばっちりを受けたのはサコツだった。
サコツは相崎百合香の彼氏という立場上、俺の味方をすることもできず、かと言ってレイリに肩入れするわけにもいかず、とりあえず相崎百合香の元へ飛んで行っては、彼女と一緒に俺とレイリを引き剥がすという実力行使に出る他なかった。
だから、俺とレイリが顔を合わすたび、俺もレイリも疲れたが、マシバもサコツも相崎百合香も、みんなが疲れた。ロッテはただおろおろしているだけだった。
そんなことがわかり、やがて、俺とレイリは廊下ですれ違っても一瞥をくれ合うだけで、基本的には互いを無視するという方向で暗黙の内に折り合いが付いた。
そうして、しばらく俺たちとレイリたちとの間は妙にギクシャクしながらも、目立った衝突は起きなくなった。
別に、レイリのせいで俺とマシバ、サコツ、ロッテの関係が変にこじれるということもなく、サコツと相崎百合香は相変わらず良好な関係を続けていたし、マシバも久々にその本領を発揮するべく、女子グループの中で次第に勢いを増すレイリ一派に取り入って、俺たちに有益な情報をもたらすと共に、良きつなぎ役として本来の任を全うしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます