『泣いてヤブを斬る』①
「俺たちはバカをするために生きている」
ヤブ。
本名、
ヤブは俺たち仲良しバカ三人組が中学に上がると同時に知り合うことになった、別の小学校から来たひょろっとしてなよなよした実に頼りないやつだった。
どうしてそんなやつが俺たちの輪の中にいたかと言うと、その責任はまたよりにもよって、俺にあった。
中学に入って早々、俺たちは勢力固めとしてその地盤を築くべく、手当たり次第片っ端からいろんなやつに声を掛けては仲間を増やしていった。
その一方で、それに反目する一部の勢力には秘蔵の懐刀ことサコツを差し向け、歯向かうやつには容赦なく地獄を見せた。
また、増長する一方の俺たちバカ共を煙たがる婦女子連中にはマシバを送り込み、その御機嫌を取っては欺いた。
臨機応変、縦横無尽、柔軟至極に立ち回る俺たちの前に、敵はいなかった。
そんな中にあって、周りの喧騒をものともせず、常に物陰と人影の間を行ったり来たりしながら、いるんだかいないんだかよくわからない
それが、ヤブだった。
優しい俺は、そんなヤブにも猫なで声で勧誘を敢行した。
「俺たちと一緒に、遊びませんかにゃあ?」
「……え、え、あ、え、え、あ、え、え……」
奇妙な呪文を唱え、ヤブはそのまま氷結果汁千パーセントスパーキングした。
どうやら、その呪文は自らを現実から乖離させ、異次元へと魂を送還する高度な黒魔術らしかった。
その後すぐ体内に魂を宿してこちら側の世界へと戻って来たヤブは
「その、あ、あ、の、僕は今、え、え、えと、ひ、暇で、い、い、い、忙しいので」
と、あちら側の世界で習得したらしき語学を披露して、俺もそれに対して
「どっちなんだてめえこのやろう!」とは言わずに、
「お、お、俺、お、おまえ、一緒、な、仲間、と、と、も、だ、ち」
と、できる限りのコミュニケーションを取ろうと七転八倒、悪戦苦闘した。
するとヤブは
「ひひひいっ!」
と奇声を上げてどこかへ走り去って行ってしまった。
その後しばらくの間、俺はヤブのことは忘れて自らの権勢を確固たるものにするべく、そっち方面に根っから執心した。
しかし、すぐに俺たちは嫌でもヤブに注目せざるを得なくなった。
というのも、中学に入って最初の中間テストで、ヤブは主要五教科全てで満点を叩き出したからだ。
俺は決心した。
ヤブのことを「ブレーン」として我らが軍団に招き入れるべきだ、と。
そして、幾日にも渡る盛大なる宴を催した末に、俺はヤブを自分のパーティーに加えることに成功した。
簡潔に申し上げるならば、私は薮田大先生がお一人でお給食をお居残りでお召し上がっているところへ
そうやって餌付け同然のギブアンドテイクを繰り返している内、ヤブは徐々に心を開いていった。それと同時に日本語も理解してきたらしく、徐々に互いのコミュニケーションを図ることができるようになっていた。
それにしても、日本語もままならぬようなヤブがどうして中間テストで五教科満点を取れたのかは、今もって謎である。
だがそんなことはどうでもいい。俺はとうとう、得難き
が、そう思ったのは俺のとんだ早合点だった。ヤブは臥竜でも鳳雛でもなければ、ましてや徐庶ですらなかった。
ヤブはとんだポンコツ馬謖だったのだ。
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