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「すみません、マスター、ご迷惑をお掛けして」

「いえいえ」

「あの子新人なんですけれど、ちょっと・・・いや結構なおっちょこちょいで」

 苦笑いを浮かべるのはうちの常連でもあるスタジオトライトットの舞台俳優、マリオ君だ。

 マリオ君も天然だから何となく重なる感じがしない事も無かったけど? なんて。

「このくらい、迷惑でも何でもないですから」

「すみません。やる気は誰にも負けないんですけれどね」

 二度目のチラシ集めの最中に様子を見に来たマリオ君が駆けつけてくれていた。彼女は俺とマリオ君にまた心配になる程深々と頭を下げた。良いからちゃんと両手でチラシを持ってね!

「あの子はキャストさんですか?」

「はい、一応。まだ研修生と言う形なので色々な仕事をしてもらっていますが、将来的には舞台に上がるはずです」

「そうですか」

「度胸もあるし、弱音も吐かないし、いつもニコニコしているし。入団のオーディションのときから不思議と雰囲気のある子で、まだ特に演技が凄く上手いとかじゃないんですけど、良い女優さんになるんじゃないでしょうか」

 なんて彼女が居る方向に視線を移してマリオくんが言う。それこそ彼女と彼は重なる部分が大きい気もするけど。

 いやしかし、マリオ君がそんな事を言うなんて。さすがもう一人前の舞台俳優さんだね。

「や、そう言うんじゃないですからっ」

「おや、そうなんですか? 今度の舞台は主役を張るのに?」

「んっ」

 マリオ君は言葉を詰まらせるようにして照れる。何を言うのさ、全国誌にも載ったその美貌で。

「ダ、ダブル主役ですから・・・その、僕だけじゃないし・・・」

「ふふ、今回はチケットが早々に売り切れてしまうかもしれませんね。私の分、お願いしてもよろしいですか?」

「えっ、また来て下さるんですかっ?」

「えぇもちろんですとも」

 スタジオトライトットは面白い演目をするし、俺は好きなんだ。だからこれからも通うつもりだし、あの彼女が舞台を踏む時も見て見たいし。

「舞台、楽しみにしています」

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