偶然とこれからと

カゲトモ

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「大丈夫ですか?」

 足元に飛んできた何枚かのチラシを手にして声を掛けた。幸い風は吹いていなかったから良かったけれど、昨日みたいな強風だったら今ごろ大参事になっていたぞ。

「ありがとうございますっ!」

 傍でしゃがみ込んでいた彼女がバッと顔を上げると爽やかな笑顔でそう言った。

「助かりますっ」

「いえいえ。暑いのに大変ですね」

 うっすらと汗を滲ませた彼女はまたにっこりと笑って返した。

 最高気温を叩き出しているだろう時間帯。土曜と言うこともあって駅前には人も多く、それだけでも暑い感じがした。

 昨夜エアコンのタイマーをして帰った自分に感謝しながら駅を出ようとすると、アーケードの前でチラシを配っている女の子を見つけた。良く見る光景だけど見たことのない子だった。

 暑いのにかわいそう、が第一印象でただそれだけだった。チラシをもらうつもりもなかったし、サッと横を通り過ぎて店に最短距離で行くつもりだった。

 すれ違いざまに彼女がチラシを落としたりしなれければ。

 人として目の前で困っている人がいたら手を差し伸べるのが当たり前だろうし、俺だってそんなひどい奴じゃないさ。それに拾わなきゃこのチラシを手にすることもなかったんだし。

「ご親切にありがとうございました」

 拾ったチラシを手渡すと彼女は丁寧に頭を下げて礼を言った。二つのおさげが肩から落ちるくらいに。

「とんでもない、このくらいのこと。それより、今度新作するんだね。チケットはいつから発売かな?」

「え、うちの劇団をご存じなんですか!?」

 彼女は心底驚いたように言う。リアクションの大きさからしてキャストさんだろうか?

「えぇ、スタジオトライトットさんは好きでよく見させてもらっているから」

「わ、そうなんですね! チケットの発売は八月十日からになります。よろしくお願いしますっ!」

 ばささっ。

「わっ大丈夫ですか!?」

 勢いよく頭を下げた彼女、それから本日二回目のチラシ集め。

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