mo_modoki

第1話 蛸


インターホンの音に顔を上げると、机上の時計は12時きっかりを指していた。


谷元春は大きく伸びをして、椅子から降りるべく大きく後ろに身を捩る。


ネットで買った6万2千円の椅子は腰痛を確かに改善してくれたが、6畳しかない元春の部屋に置くには少しばかりサイズが大きく、そのため降りる度に身体を拗らなければならなかった。


最も、後ろにある箪笥をずらせばよいのだが、腰痛持ちの元春にとってその作業は容易ではなく、友人を呼んで手伝ってもらおうとなどと思っている内に、かれこれ2ヶ月程が経ってしまい、当初は煩わしいことこの上なかった椅子から降りるという作業も、慣れてしまえばなんてことはなくなっていき、そんなこんなでそのままになっているのだった。


2回目のインターホンが鳴った。


はーい、と小声で言いながら元春は玄関に向かう。




『要冷蔵』と書かれた発泡スチロールは実家からだった。


最近どうも暑いですね、などとたあいもない言葉を配達員と交わし、小ぶりな荷物を受け取って判子を押す。


どうもー!


そう言って帽子を軽く上げた彼の肌はこんがりと焼けており、元春はそれとは対照的な自身の肌をちらりと見た。

どうも、と言い小さく会釈する。


最後に家を出たのはいつだっただろう。配達員の車が遠ざかっていく音を聞きながら、ふとそう思った。


白い発泡スチロールに目を移す。荷物の内容は、母の字で乱雑に「蛸」とだけ書かれていた。


「蛸」


呟いた声が部屋に反響した。


意味もなく耳元で軽く振ってみる。

そこそこの重さを持ったものが中で動く気配があった。


台所に持っていき、箱を開けると、中には先程の配達員の頭が入っていた。


どうもー!


そう言ってまた太陽のような笑顔を向ける彼に、元春はまた小さく会釈した。






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