世界の終わりに、君と

餡蜜

その五分は何よりも美しかった

 風が頬を撫でた。さわさわと草が揺れる音がする。

「まるで世界に二人しかいないみたいだな」

 目を閉じて集中しても動物の足音、虫の飛ぶ音、小鳥のさえずり、何も何も聞こえない。ただただ、優しい風が吹いてるだけ。

「まあね。だって本当に二人しかいないし」

 隣に立っている瀬名せなが静かに言う。目を細めて空を見つめるその横顔が、赤く染められていく。夕焼けが全てを燃やし尽くしていくみたいだ。

 時間はいつも等しく流れるはずなのに、とても遅く感じる。五分も経っていないはずなのにとても長い時間ここにいる気がする。

「…………もう、いい?」

 赤い空を見つめたまま、瀬名は僕に尋ねる。

「うん、いい」

 僕は答えた。ちらり、と瀬名はこちらを見た。目と目が合う。先に目を逸らしたのは瀬名だった。それから瀬名は鞄を開け、短刀を取り出した。僕らは向かい合う。透き通った青い瞳が僕を見ている。

「なに泣いてんの」

 瀬名がそっと僕の頰に触れる。確かに、僕の頰には涙が流れている。

「……わからない。なんで泣いてるんだろう」

「まあいいや、何でも。もう終わりだから」

 瀬名の手が頰から離れる。そして腹部に痛みが走る。思ったより痛くないなあ、なんて自分でも呆れるほど気の抜けたことを思った。抜ける短刀。溢れる赤い液体。くずれ落ちそうな僕の体を瀬名が支えてくれる。流れ落ちる液体を手で触れる。暖かい。。瀬名も短刀を持ち替え、自分自身に突き刺した。

 そうして僕らはこの世界に終止符を贈った。

 僕がさいごに見た世界はぼやけていて、泣きそうな優しい笑顔を浮かべた瀬名しかいなかった。

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世界の終わりに、君と 餡蜜 @tensimaguni

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