第7話 わだかまりとすれちがいの行き先
茹だるほどの暑さが徐々になくなっていく。あれほど暑さを嫌がっていた筈なのに。人は何かがひとつ終わりを見せると寂しい気持ちになるのだ。
僕は遠足の準備をしている間が大好きで、前日になると「楽しみが終わってしまう」という思いにテンションが駄々下がるのだ。
おやつは三百円まで〜とか、そういうの楽しかったな〜
会いたくて会いたくてf……いや、これ以上は言いますまいよ。脱線事故を起こす前にやめとこ。(前回の二の舞になるとこだぞ? 事故だぞ? 確実に死亡事故だ……おっかねえ〜)
では、気を取り直して本編へ行ってみよう〜
「ありゃりゃ〜 石田の野郎はそんなこと言いやがったか〜」
「どうしようもねえな〜 余計なことを……ホントどうしようもねえことを」
「亮ちゃん。ねえ、放課後は一緒に帰ろうって約束したの?」
翔がパンをくわえてヨーグルトジュースの紙パックにストローを指すと、それを見ていた尚が呆れたように菓子パンの袋を開け、声を少しだけ荒らげた。僕の顔を見て雅ちゃんは少しだけ困ったように眉間に皺を寄せる。
「してません……何もロクに話してません」
「奥手だからね〜亮ちゃんは」
「こういうのは奥手って言わないの! ちょっと人より不器用なのよ? そこが可愛いのよ! って、いつもひとこと多いのよ、翔は!」
「……なんか俺、怒られてばっかじゃね?」
「あら〜翔ちゃん、意外と良くわかってんじゃないの」
翔の言葉にニヤつきながら、尚がメロンパンを頬張った。
「それはともかく、明日リトライでしょ?」
翔が目をギラつかせ、僕に軽くデコピンをした。僕はおでこを押さえ痺れる痛みを我慢する。だけどね、なぜかとても嬉しくなっていたんだ。
机をふたつ合わせるようにして、それを四人で挟んで朝ごはんを食べながら雑談。これも僕らの日課だった。
ひとまず、朝ごはんを食べ終わると各教室に戻ってく。僕と尚は三年間同じクラスだったから先生が来るまでは色んな話をずっとしているのが楽しかった。今考えたら、尚のことが好きだった子が居たのかとか。尚、自体の恋愛はどうだったのだろうかと思った。僕は邪魔をしてはいなかった? みんなは面倒な事に片足を突っ込んでいなかった?
少し、気になった。
「明日リトライでしょ?」
翔が言った、「リトライ」は、すぐに来るとは僕もみんなも思っていなかった。うん。
放課後の夏の空は無駄に青くて、入道雲がそれをとても綺麗に魅せる。きらきらとほとばしる汗と生徒の声がグラウンドに響く。ああ〜 青春だ!
僕はその頃、陸上部に所属していた。(半年で理由があって辞めてます。ってどうでもいいですね)
輝きを放つ太陽に眩暈を起こしそうになりながらも走るのが好きだった僕は中距離で汗を流す。
部活が終わって、駅までをのんびりと鼻唄を歌いひとり歩く。今日こそはミ〇ドに寄り道だと僕は徐々に足取りが軽くなる。若いって素晴らしいね? ねえ、今の僕?(うるさい)
ミ〇ドの窓から駅の時計が見えるのが僕は好きだった。夕方のオレンジとピンク色に染まる空に薄らとかかる雲が綺麗で、オールドファッションを買ったばかりの僕は、誰から見ても爽やかだったはずだ。たぶん。
駅の改札を入って、三番線への階段をゆっくりと下っていく。最後まで降りるまでに人影が見えて、僕はミ〇ドの紙袋を思わず両手で握りつぶしそうになる。
いつからそこに居たのか、カレが僕を見上げる。その目は今朝の優しい目ではなかった。真剣で、それでいて、少し怒ったような目だった。
僕は階段を降りて、恐る恐る声をかけた。
「……誰か待ってる?」
「うん……待ってた」
「待ってたって?」
「それ以上を聞きますか?」
「ごめんなさい……」
「一緒に帰ろう?」
「……うん」
それ以上は何も言えなかった。
電車が来るまでが、こんなに長いなんて思ったこともなかった。沈黙が怖い。何を話せばいい? どう切り出せばいい? 楽しいドキドキは何処にもなかった。怖かった。ただ、怖かった。今すぐにでも逃げ出したかった。
僕は臆病だった。恋愛は苦手なんだとここで初めて気がついた。
いや、おせーわ!
どうすんだよ! この状況!
カレがどんな気持ちで朝も今も待って居たか、考えてみたらどうだ? んん?
心が騒ぐ。
自問自答。
自己嫌悪。
色んな言葉が頭をめぐる。
「よお、ねーちゃん何処まで帰るん? もう遅い時間やで〜おじさんといっしょに電車乗ろか!」
まあ〜 なんともなタイミングで、そこに酔っ払ったおじさん登場。もちろん僕はどうしていいのか戸惑う。
「あー……いや〜……ねえ?」
僕は眉間に皺を寄せながらなんと答えていいのか迷っていた。
「変な人に声かけられても答えないでいいんだよ! ほら、あっちに行くよ!」
はじめての彼の大きな声に僕は驚いた。けども、もっと驚いたことが起こった。
僕の左手が、カレに握られて力強く引っ張られていた。
「あああ……うん……ごめん!」
「謝らなくていいから! 思った以上に隙だらけだな……なんかいつもよりも緩いんだね」
「いつもって……」
「毎朝、同じ車両に居るの知ってた……友達に囲まれて見えるか見えないかだったけどね」
「…………」
「そこ、黙んないでくれるかな?」
やっとカレが柔らかく笑った。いつもの優しくてふわりとした薄茶色の髪が夕方のオレンジに染まる。綺麗な色がさらに綺麗に染まっていく瞬間だった。
「……僕も見てたから」
「嘘……でしょ?」
「本当だから、そこは信じて。でも、雅さんと中田さん(尚)に言われて駅に連れてこられた時は正直びっくりしたけどね」
「あいつら〜 一年生の階まで行ったの?」
「来たね……正々堂々と二年生ですって出立ちだったよ」
僕はそれを聞いて、頭を抱えそうになったけど我慢をする。
だけどね、トモダチって凄いんだって分かったんだよ? パワーあるなって思ったよ。
ホントだよ?
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