照り返す夏と小さな僕とキミと
櫛木 亮
第1話 この夏の思い出は
ぬらぬらと陽炎が熱く焼けた横断歩道を歪める。
僕は突然痛み出した生えかけの親知らずに泣かされて、歯科医に相談するために予約を取った。
新しくもなく名医というわけでもなく、何の変哲もない歯科は悪評も良評も聞かないが、それもまた良い歯科医だと勝手に理解して選んだ。
どうでも良くない、どうでもいいことだ。
僕は子供の頃から怖がりで、意味もなく痛いものを嫌う。の割には痛みに強い、いや、鈍いのだろう。
大抵が「よくここまで我慢出来ているね? 普通なら、のたうち回ってもおかしくないよね……これ……」と医者が顔を歪める。なんてことが多い。まあ、これも余談だ。
受付を済ませ、問診票に記入をと、後ろの席に腰を下ろすことにした。
名前を書き、しばらく質問に答えていく。途中何度も天井を睨みつけるようにして考え込む。これも僕の癖だ。
あと数カ所で全てに書き込む。とそこに細身のスーツに身を包んだ男性が外の生温い空気を纏い入ってきた。その生温い空気に苦虫を噛み潰したような表情で僕はそいつを見上げた。デカイな。クソ暑いのに営業周りか? ご苦労様です。そう思いデカいサラリーマンの顔を見て、淡い水色の空と真っ白の入道雲が僕の脳裏をかすめていった。
その人は、高校の時に数ヶ月だけ恋に落ちた、ひとつ年下のカレだった。
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